アメリカはウクライナと”共倒れ”するつもりなのか?
From:ジム・リカーズ
ウクライナの戦争について真実を知ることは極めて困難である。
その最大の理由は戦争だからだ。戦争というのは、常にリアルタイムで計るのが難しい。「戦争の霧」という言葉は、特定の戦争の進行に関する不確実性と不正確さを伝えるために考案されたものだ。
しかし、ウクライナの戦争が多くの人にとって混乱する理由はもう一つある。
それは、ウクライナのプロパガンダが、これまでにないほど驚くほど効果的な嘘にまみれているせいだ。
ロシア人犠牲者数の誇張、ウクライナに悪い影響を与えるニュースの弾圧など、ウクライナの暴力的なプロパガンダは止まることを知らない。
ゼレンスキー大統領が元俳優でコメディアンであることを考えれば、これは予想できることかもしれない。演じることに長けているのだ。
ゼレンスキーは、バイデン大統領、リシ・スナク英国首相、ニューヨーク・タイムズ紙などの拡声器のおかけで圧倒的な発言力を持っている。
最新のプロパガンダ演出は、ロシアの侵攻1周年の数日前にジョー・バイデンがキエフを訪れたことだ。バイデンは定型的なスピーチを行い、さらに5億ドルの武器供与を許可。ポーランド行きの列車に飛び乗った。
バイデンとゼレンスキーが中庭に入ると、キエフの空襲のサイレンが鳴り響く。ロシア側は事前にバイデンが来ることを知らされており、バイデンの訪問中は空襲をしないことに合意していたのだ。
実際、しばらくは空襲がなかった。飛行機もドローンもミサイルもない。サイレンは、グローバルメディアがサウンドトラックとして取り上げるために、誤った危機感を作り出すことを意図した舞台効果に過ぎなかった。
ウクライナは戦争にひどく負けている。しかし、そうでないと信じている人たちを責めることはできない。彼らは皆、ゼレンスキーによるプロパガンダの犠牲者なのだから。
残念ながら正しかったのは…
ウクライナを理由とした、米国とEUの対ロシア制裁は、完全な失策だった。ロシアの行動を変えることができず、ロシアの経済を物質的に痛めつけることもできず、米国や欧州、多くの欧米の金融機関を痛めつけるというブーメランを放っているのだ。
私は昨年、戦争が始まって間もない3月と4月にもこのことを書いた。私のコメントは、よく言えば懐疑的。悪く言えば極端な批判で迎えられた。しかし、そんなことはどうでもいい。予測を参考に正しく情勢を読んだ方が1人でもいれば幸いだ。
ロシアのルーブルは、開戦前よりも強くなっている。
ロシアの石油・ガス収入は、戦争前よりも増えている。ロシアの石油はインドや中国に安く売られているが、ロシアは増産でその分を補うことに成功している。
2022年のロシア経済は3%程度の落ち込みにとどまった。以前の予測では20%以上の落ち込みが予想されていたが、それが極端に悲観的だったことがわかるだろう。
一方、ウクライナは-36%という壊滅的なダメージだ。
米国や欧州の景気後退が予想される中、ロシア経済は今年も緩やかな成長を示すと予想されている。ロシアは何年もかけて米国からの金融攻撃に備えてきたため、金融機関へ実際にダメージを与えることは極めて困難だ。
一方のウクライナはロシアによる攻撃を完全に防ぐことはできていない。北朝鮮からのミサイル、イランからの無人機、そして自国の巨大な産業能力によって、ウクライナ軍を破壊し続けている。
米国が切れるたった1枚のカード
つまり、ウクライナは戦場で負け、米国主導の対ロシア制裁体制は失敗している。米国ができることと言えば、紛争をエスカレートさせるのみだ。
ウクライナに提供された米国兵器のエスカレートぶりは目を見張るものがある。まず、航空機を撃墜するための地対空ミサイル「スティンガー」と、強力な対戦車兵器「ジャベリン」を提供。
次に、精密誘導弾を搭載した長距離重砲であるHIMARSを提供した。ウクライナはこれを効果的に使用しているが、ロシアはこれに対抗する手段を開発している。疲弊しているのは米国兵器の在庫の方だ。
プロパガンダとは逆に、ロシア人はバカではない。実際、ウクライナ軍のトップは、「すべての軍事科学はロシアにある」と発言している。
ともあれ、HIMARSの納入以来、米国、英国、ドイツを筆頭に
・エイブラムス戦車
・チャレンジャー2
・レオパルト2
などの最高級戦車を提供することを約束している。
そして、すかさずウクライナのゼレンスキー大統領がF-16戦闘機を要求した。バイデンは「ノー」と言ったが、戦車への要求に対する回答も最初は「ノー」だった。F-16を承認するのは時間の問題だろう。
これらすべては、ロシアの標的を発見し、米国の兵器の使用を指示するために設計された数十億ドルの情報、監視、通信システムによって支えられているのである。
ウクライナに駐留するNATO軍の存在については、言うまでもないことだ。ある情報筋によると、2万人ものポーランド軍がウクライナの制服を着て前線に出ており、彼らは外国の傭兵である。米英軍も軍服を着ていない状態で現地におり、これはジュネーブ条約に違反している。
もちろん、このことをロシアが知らないわけではない。実際、ウクライナからすべてのNATOの人員と装備を撤退させるようにと警告を行った。
ウクライナの負け
しかし、これらの援助はどれも特に有効なものではなかった。ロシアが広い戦線でウクライナ軍をゆっくりと計画的に消耗させているため、ウクライナは戦争にひどく負けている。ロシアは戦略的に重要な都市バクムートをほぼ包囲しており、おそらく近いうちに完全に遮断され、2万〜3万人のウクライナ兵が閉じ込められるだろう。
バフムートの喪失はウクライナにとって大きな敗北であり、ドンバスの防衛ラインを大幅に弱めることになる。ウクライナの防衛線は1本しかなく、しかも現在保持している防衛線よりもかなり弱い。
もしロシアが最後の防衛線を突破することに成功したら、その防衛線とドニエプル川との間には、ロシアを阻止するものはほとんどない。
これはウクライナ軍を非難するものではない。彼らは懸命に、勇敢に戦ってきたし、今もそうしている。ただ、戦車、航空機、大砲、弾薬、あらゆる面でで自分たちを圧倒的に上回る大国を相手にしているというだけのことだ。単に劣勢なのである。
米国も共倒れするのか?
米国から約束された多くの兵器(戦車を含む)は実際には到着しておらず、6カ月以上準備できないかもしれない。
米国、英国、ドイツは、他国で戦争が起きた場合に自国の準備態勢を損なうことなく、これらの兵器を提供する余裕が実際にあるのだろうか。
実際、ウクライナに提供された武器や弾薬のせいで、ヨーロッパの兵器庫はひどく消耗している。もともと大きくはなかったが、米国の供給量さえも危険水域に落ちてしまった。それ以上に状況が悪いのは、不足分をすぐに補うことができないからだ。
冷戦終結後、米国は多くの弾薬工場を閉鎖している。これらは再開することができるが、戦時中の完全な動員には数週間ではなく、数年かかるだろう。第二次世界大戦が良い例である。
1943年までに、アメリカは戦時用航空機を年間10万機近いペースで生産していた。しかし、1941年には、その数はわずか1万8,000機だった。フォード・モーター社は、基本的に自動車生産を停止し、リバールージュの巨大な工場を航空機生産に転換して、その間の生産を行ったのである。
戦闘機と爆撃機を5倍に増やすためには、2年がかりで達成された。数カ月でできたわけではない。
果たして、東欧の腐敗した寡頭政治を支えるために、重要な兵器の在庫を減らし、米国の国家安全保障を脅かす価値があるのだろうか?
P.S.
著者のジム・リカーズについては、こちらで詳しくお伝えしている。
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