米国の最大の敵は米国?!ロシアへの経済制裁で弱体化するドルの価値
From:ジム・リカーズ
教室の中には他の生徒より賢く、素早い生徒がいる。一方で、クラスについていけない生徒もいるのは、皆さんお分かりいただけるだろう。
経済制裁と金融戦争において、米財務長官ジャネット・イエレン氏が「クラスについていけない生徒」のような存在であるのは、残念である。
今から約10年前、私は米国国防省の会議室で、軍隊、CIA、財務省やその他の省庁の国家安全保障を担う高官たちに話をした。金融戦争で米ドルを乱用すると、最終的に他国が国際取引で米ドルを使わなくなるだろう、と。皆なが、米国の次の怒りの矛先になることを恐れるからだ。
メモを取る人もいれば、忠告を無視する人もいた。そんな中、財務長官はテーブルを叩き、こう言った。
きっと1913年の英国官庁でも、イギリス人が英貨について同じことを言っていただろう。第一次世界大戦が始まったわずか1年後の1915年には、英貨は米ドルに押しのけられるとも知らずに。
ドルシステムに代わる、新たな決済プラットホームの出現
最近、米陸軍戦略大学で金融戦争に関する講義をした。
なぜなら、当事国と中立国は米ドルを使わない、別の決済システムを創るからだ。
既にその動きは始まっている。現在の国際金融取引は、米国やEU主導のSWIFT(国際銀行間の送金や決済に利用される安全なネットワーク等を提供する非営利法人)や、CHIPS(米国の民営機関が運営する米ドル決済システム)が中心となっている。しかし、2014年には、ロシアがSWIFTに代わる情報ネットワークSPFSを、また2015年には中国がCHIPSに代わる決済システムCIPSを創った。
これらの代替システムは、まだドルが優位の現在の決済ネットワークを完全に覆すまでには至っていないが、その日は確実に近づいてきている。
米国の最大の敵は米国
私は軍隊や情報機関(インテリジェンス・コミュニティ)に以下のように述べた。
米国自身が、制裁やその他の誤った政策によって米ドルを破壊している。敵であるはずのロシアなどを攻撃するより、米ドルにダメージを与えているのだ。
米ドルの「武器化(weaponization)」に関して、同じ弱点を指摘している人たちもいる。唯一、この危険に気付いていないのは、ウォール街のチアリーダーたちと米国政府のトップだけだ。
用意周到なロシア、金備蓄でリスク回避
ロシアは何が起こるかを全て把握していて、それ相応の準備を進めていた。米国などによる制裁の影響を抑えるため、前々から金を備蓄していたのだ。
2009年のロシアの金備蓄量は約600トン。2022年に制裁が課されるようになった頃には、金備蓄量は3,000トンに迫っていた。13年間で、2,400トンの金を蓄えたのだ。
もちろん、これほど大量の金を獲得するのは簡単ではない。入念な計画の上で金を買い集めることに成功した。
ロシアは定期的に金を買った。毎月10から30トンだ。年に約250トン。そして13年かけて3,000トンまで蓄えることに成功した。
彼らは、金の備蓄に関して隠していたわけではない。彼らは米国とその同盟国による金融戦争を見通していたのだ。
だから、制裁が課された時点でのロシアの総備蓄量は約6,000億ドルで、その約25%の1,500億ドルが金だった。それも、金先物取引やETF(上場投資信託)のような簡単に凍結される資産ではない。ロシアの金庫に金塊は実際に置いてあるのだ。
金備蓄は制裁に対する完璧な答えとはならなかったが、ドルシステムから追い出される事態を免れるために十分な戦略だった。
私はこのことについて、2009年の時点で既に米国国防総省に忠告していた。2011年出版の『通貨戦争』にも書いている。そして今、ようやく目に見える形で現れてきた。もちろん、中国も米ドル支配から逃れるため、ロシアと同じ行動をとっている。
2023年、ロシア経済は米国経済を上回るか?
ついでに言えば、信じられないかもしれないが、ロシアの成長率は今年、米国の成長率を上回るだろう。IMFの推定によれば、ロシアの経済は3%弱とわずかなに成長する予想だ。一方で米国はどうか?既に不景気に入っているだろうから、その成長率は3%には程遠い。
その間、ロシアの石油輸出は今までになく活発だ。
ロシアは中国から武器類や他の製造品を含むハイテク製品を買っている。反対に、中国はロシアから農業生産や武器に加えて、石油と天然ガスを買っている。この大きな二国間貿易にドルは使われていない。ロシアは元で、中国はルーブルで支払っている。
米国のドルベースの制裁が失敗なのは明らかである。米財務長官ジャネット・イエレン氏が制裁は効いていないと認めるほどに。
彼女は最近こう言った。
危険に全く気がつかないよりは、10年遅かったとしても気づいた方がいいのかもしれないが…
ドルが「まだ」下落していない理由
一度新しい取引通貨と支払い方法が確立したら、米国が他国の経済を脅かすことができるドルシステムにはきっと戻らないだろう。今、急ピッチで進んでいる。
ここで、なぜ今日の世界でドルが強いのかを少し説明しておこう。その理由は銀行危機だ。ちなみに、危機は終わりから程遠い。ドル表記の担保、特に米国財務省短期証券(米国政府が発行する償還期限が1年以内の割引債の総称)の需要は高い。その需要もいつか崩れるだろうが、今ではない。
イエレン氏は、彼女の無能さを再び表に出すことになった。彼女は、金融政策、財政政策、国際金融システムの知識がほとんどない、典型的な新ケインズ派だ。
私は、ドルに対する最大の脅威は外国から来るのではなく、米国財務省から来ると繰り返し述べている。なぜなら、彼らは当たり前のようにドルに絶大な信頼を置いているからだ。この危機は米国が自ら引き起こしたものだ。
〜編集部より〜
現在、ジム・リカーズさんが行った最新の調査結果を公開しています。