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金融危機は繰り返さないが、サイクルを作る。

From:ジム・リカーズ

ジム・リカーズは、ウォール街で40年の経験を持つ金融・経済の専門家。地政学に精通している彼は、地理的な条件から、軍事や外交、経済を分析することを得意とする。実際、米国における彼への信頼は非常に厚く、CNBC、ブルームバーグ、ウォール・ストリート・ジャーナルといった世界的なメディアに数多く出演し、政治問題や経済の動向について提言を求められてきた。さらに彼は、ホワイトハウス、CIA、国防総省の元顧問である。2008年にはリーマンショックの発生を予測し、CIAに対して助言を行っていた。彼のもう一つの肩書きは、5冊のベストセラー本の著者。その著書には『The New Case for Gold』(邦題:いますぐ金を買いなさい)や『The Death of Money』(邦題:ドル消滅)がある。政府機関が信頼を置いてきた彼の予測や提言は、きっとあなたの金融知識の向上、ひいては資産形成にお役立ていただけるだろう。

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今日の銀行危機を広い視野から見てみよう。金融システムのダイナミクスを理解し、危機がどの程度続くか、どの程度の破壊力を持つかを推定する手がかりとなるはずだ。

まずは、不況と金融危機を区別しよう。両者は異なる事象だ。

不況と金融危機は別

不況はビジネスサイクルの一部である。金融引き締め、失業率の上昇、企業の倒産、在庫処分、工業生産高の減少、GDPの減少などが重なり合った状態だ。

ここ数十年では、1973年、1980年、1981年、1990年、2000年、2007年、2020年に不況が発生した。1980年と1981年は、相次ぐ不況を示している。それを除けば、約7年に1度のペースである。

2007年の不況は1年6か月と最も長く続いた。2020年の不況は、GDPの減少が19.2%と最も深刻だった。

米国は今、再び不況に陥っている可能性が高い。しかし、その確証は上半期のデータが明らかになるまで得られない。

金融危機は同じ期間中に相次いで起こっている。

中南米債務危機(1982~1987年)、貯蓄貸付組合(S&L)危機(1986~1989年)、ブラックマンデー(1987年10月19日)、日経崩壊(1990年)、メキシコ通貨危機(1994年)、アジア、ロシア、LTCM危機(1997~1998年)、ドットコム崩壊(2000年)、サブプライムローン危機(2007~2008年)。

50年間で8回、約6年に1回のペースである。

金融危機の確率を表しているといわれるブラック・スワン理論(予想ができず、起きた時の衝撃が大きい事象)や、1万4,000年に一度起こると言われる5シグマ事態(一日に5%変動する事態)は論理的根拠の乏しい考え方だ。実際にはもっと頻繁に起こる。

金融危機が興味深いのは、いつも違った顔で現れるからだ。大きな損失を出す場合もあるが、金融システムが危険に晒されているような急性期はない。

例えば、中南米債務危機、S&L危機、日経崩壊。3つの金融危機は何年も続いたが、資金操りだけを見れば、何とかなるものだった。日経平均株価は1989年末につけた4万円の水準を回復していない。ある意味、日経ショックは発生から35年経った今も続いていると言える。

他の金融危機も深刻であったが銀行システムの脅威とならずに過ぎ去った。1987年のブラックマンデーは好例だ。株価大暴落は起こったが、他は何も起こらなかった。暴落の2日後は、株を買うのに絶好のタイミングにさえなった。

メキシコ通貨危機やドットコム崩壊も同様だ。危機はすぐに終わった。銀行システム全体の脅威とならず、現金を持っている洞察力の鋭い投資家は安値で株を購入。次の上昇の波に乗った。

世界金融システムの崩壊に近い危機は、1998年のアジア、ロシア、米ヘッジファンドLTCM危機と、2007~2008年のサブプライム住宅ローン危機だけである。

しかし、両者には重要な違いがある。

アジア、ロシア、LTCM破綻危機では、深刻だったが、不況にはならなかった。経済成長と株式市場のバブルがピークに達したのは2000年である。

一方、2007~2008年のサブプライム住宅ローン危機は、実在的な金融危機であり、深刻な不況であった。(不況が最も厳しかったのは2020年だが、金融危機はなかった。)

1973年以降、1998年と2008年を唯一の実在的な危機と見ると、頻度は25年に一度。あまり多くない。最後の危機は15年前である。

さて、これらのデータから分かることはなんだろうか?導き出せる結論は次の4つだ、

  1. 不況と金融危機は異なる。

  2. 不況には多くの共通点があるが、金融危機は特異で予測不可能な傾向がある。

  3. 実在的な金融危機は本当に稀であり、過去50年間で2回しか起きていない。

  4. そして最も重要な結論は、不況と実存的な金融危機の組み合わせは極めて稀である。

2007年~2008年にかけてのサブプライム住宅ローン危機は、経験しうる限りで唯一、実物と金融両方共に崩れる複合危機だ。

同様のケースは1929年~1940年の世界恐慌まで遡る。当時は、2回の不況(1929~1933年、1937~1938年)、押し寄せる銀行破綻(1931~1933年)、継続的な通貨切り下げ、世界貿易の崩壊が起こった。

歴史は繰り返されるのか?

さて、肝心な質問だ。歴史は繰り返されるのだろうか。
 
現在の不況を示す証拠は強力だ。労働力人口は少ないので、失業率の低さはほとんど意味がない。世界貿易は縮小。工業生産高は減少。卸売業の高水準の在庫は、値下げと利益率の低下を意味する。金利は依然として高く、インフレが実質賃金を圧迫している。
 
欧州の多くの国と日本はすでに不況に陥っている。中国の「再開」は失敗に終わっている。株式市場は乱高下しているが、トレンドは味方していない。国債のイールドカーブは2007年を最後に急反転している。「不況+金融危機」のうち、「不況」の部分はすでに到来している。

世界的な金融危機はどうだろうか。銀行危機がすでに始まっているのは、誰もが目撃している。今月に入ってから数多くの犠牲者が出た。

シルバーゲート銀行: 3月8日に破産を発表。
シリコンバレー銀行:3月10日にブリッジバンクが買収。
シグネチャー銀行:3月12日にブリッジバンクが買収。
ファースト・リパブリック・バンク:3月16日に11行が300億ドルの流動性救済を実施。
クレディ・スイス:3月19日にUBSとスイス政府が買収。

世界最大級の銀行であり、スイス2位のクレディ・スイスを含め、11日間で5つの銀行が破綻または救済された。影響を受けた金融機関の株主と債権者の損失を合わせると、2,000億ドル超。銀行セクターの市場損失はさらに大きい。
 
今回の破綻と救済には、異常な規制措置が伴った。ブリッジバンクとは規制当局が管理する銀行のことである。このブリッジバンクが25万ドルの預金保険枠を放棄した。シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の全預金者、つまり2,000億ドル以上の預金を事実上保証したのだ。例外的な措置により保険基金は枯渇。支払能力のある銀行にはより高い保険料が要求される。そして費用は最終的に消費者が負担する流れになる。
 
連邦準備制度理事会(FRB)はさらに踏み込んだ提案をした。つまり、加盟銀行が担保として提供した国債が額面の80%または90%の価値しかなくても、額面通りの資金を貸し付けるとした。担保付き融資は、新たに印刷された資金で賄われる。その額は1兆ドルを超えるかもしれない。
 
FRBによる措置は、米国の銀行システムと銀行預金者を完全に混乱に陥れた。

すべての銀行預金が保証されるようになったのか?
ジャネット・イエレン財務長官が「システム上重要である」と判断した預金だけが保証されるのか?
判断の根拠は何なのか?米銀行の国債ポートフォリオの含み損が7,000億ドルを超えている事実はどうなったのか?

逃げ出した預金者に現金を提供するために損失が発生すれば、銀行システムの資本の多くが一掃されかねない。
 
最も重要とも言える疑問だが、危機は去ったのか?
システムが健全であると預金者が安心するために、FRBは十分な対策を実行したのだろうか?
パニックは収まったのか?
 
答えは、「ノー」である。パニックはまだ始まったばかりだ。

歴史が示す金融危機の始まり

1998年と2008年に起きた深刻な2つの金融危機の歴史が、これから起こるパニックを暗示している。1998年の金融危機は、米国のヘッジファンドであるLTCMの救済を目前に控えた9月28日に急性期を迎えた。世界中のあらゆる株式・債券取引所が順次閉鎖されるまで、残り数時間のところだった。
 
しかし、全ての始まりは1997年6月。タイバーツ切り下げとアジア、ロシアで大規模な投資資金が国外に流出したのがきっかけだった。その後、深刻な危機から存在に関わる脅威になるまで15か月を要した。
 
同様に、2008年9月15日、リーマン・ブラザーズの破産申請により2008年危機は急性期を迎えた。しかし、発端は2007年春、住宅ローンの損失が予想を上回ったとイギリスに本拠を大手銀行のHSBCが発表し、市場を驚かせたことに起因する。
 
2007年夏にかけて、ベア・スティーンズの2つの高利回り住宅ローンファンドが破綻。ソシエテ・ジェネラルの公社債投資信託が閉鎖されるなど、危機は続いた。そして、パニックはベア・スターンズ(2008年3月)、ファニーメイとフレディマック(2008年6月)など、リーマン・ブラザーズに至るまでに破綻を引き起こした。

さらに、リーマン後も保険会社のAIG、GE、商業手形市場、ゼネラルモーターズと続き、2009年3月9日にようやく落ち着きを取り戻した。HSBCの損失を皮切りに、サブプライムローンのパニックとドミノ現象は2007年3月から2009年3月まで24か月間続いた。
 
1998年と2008年の例を平均すると、金融危機の平均期間は約20か月。今回の金融危機は、発生から1か月しか経過していない。つまり、まだ続く可能性がある
 
一方、今回の危機は今までより早く急性期に達する可能性がある。銀行への取り付けを光の速さで動かす技術があるからだ。iPhoneがあれば、マクドナルドに並んでいる間に、破綻した銀行から10億ドルの電信送金を開始できる。
 
さらに規制当局もすでに経験済みのため、対応が早い。しかし、規制当局はすでにほとんどの預金保護を約束してしまったので、苦境を抜け出す策がないのでは、といった疑問が湧いてくる。

金融危機から生き残る方法

今回の金融危機では、パニックが銀行からドルに移行するかもしれない。もう目と鼻の先だが、貯蓄者がFRBに対する信頼を失えば、銀行が破綻するだけでなくドルも破綻する。そうなれば、唯一の解決策は金地金となる。
 
その証拠に、クレディ・スイスの強引な買収が終わるやいなや、投資家たちはドイツ銀行に狙いを定めた。次の被害者は誰だ?バークレイズ?サンタンデール?わからない。規制当局も投資家も知らない。しかし、さらなる破綻が待ち受けているのは確かだ。
 
ところで、銀行の破綻という形で展開されるとはいえ、本当の意味での銀行危機ではない。起こっているのは、デリバティブのポジションを支える短期国債の担保不足と、担保不足の結果として縮小するバランスシートによる危機なのだ。
 
なぜ財務省は、例えば2兆ドルの新紙幣を発行し、公認の米国債ディーラーやFRBに必要なだけ引き受けさせないのだろうか。その理由は、ジェイ・パウエル氏もジャネット・イエレン氏も、今説明したことを理解していないからだ。
 
もう一つの理由は、財務省が現金を使い果たし、債務上限のために今以上借りられない「Xデー」に直面しているからだ。議会は債務上限を引き上げる準備ができているのだろうか?いや、民主党と共和党のチキンゲームなので、解決策は見えていない。
 
銀行の経営破綻から短期国債の不足、そして債務上限の膠着状態へと、あっという間に移行してしまった。規制当局や金融ジャーナリストは理解しているのだろうか?いや、彼らは点と点を結ぶ方法を知らない。
 
金融危機は防げない。しかし、危機の到来を察知し、富を守るためにそれなりの準備はできる。まずは金を手に入れよう。そうすれば、嵐を乗り切れるに違いない。

P.S.
著者のジム・リカーズについては、こちらで詳しくお伝えしています。

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