<分析情報>なぜ今、この巨大企業の株価下落が予想されるのか?
From:ジム・リカーズ
米国の産業を率いてきたボーイング社に何が起きたかをお話ししよう。残念だが、良い話ではない。同社は変わってしまった。
1月6日に起きた事故をご存知の方も多いだろう。アラスカ航空が運行していたボーイング製の胴体ドア部分が吹き飛んだ。そのため機内は減圧され、緊急酸素が使用された。
上空1万6,000フィート(約5,000メートル)で、ドアプラグの欠陥によりドアが吹き飛んだ。この高度での気温は非常に低く、酸素は薄い。
パイロットが飛行機を安全に着陸させようとする中、乗客は酸素マスクを装着し、無事を祈った。高度が1万6,000フィート以上であれば、乗客乗員がこの事故で生き延びることはできなかっただろう。
高度2万フィート以上では、減圧により機体は極度に不安定になり、墜落した可能性がある。酸素マスクを装着する前に、乗客乗員は気絶していた可能性もあった。
エベレストよりも若干高い高度3万フィートであれば、間違いなく墜落していた。幸い機体は無事に着陸し、軽傷者が1名にとどまった。とは言え、全員が恐怖の底を経験をした。
重なる災難
恐ろしい数分の惨事は、ドアパネルが外れたことだけではなかった。減圧によってコックピットのドアが吹き飛び、緊急着陸しようと必死になっていたパイロット達は、爆風と騒音にさらされたのだ。
9・11のハイジャック事件以来、コックピットのドアは高い安全性が求められており、内側からのみ開けることできた。突然ドアが開いたことで、必死に状況を収拾しようとしていたバイロット達はさらに動揺した。
ボーイング社は後になって、コックピットのドアは極度の減圧時に開く仕様だと説明した。しかし、彼らはその重要な事項を操作マニュアルに記載していなかった。アラスカ航空のパイロット達だけでなく、メディアから取材を受けた多くの専門家やエンジニアも知らなかった。
この一件は、ボーイング社が現在直面している無能さに対する厳しい追及、責任問題、批判に拍車をかけるものである。
問題が山積みの機体
2箇所のドアが吹き飛んだことに世の中は衝撃を受けたが、ボーイング737Max9の事故はこれだけではない。2018年10月にはインドネシアで、ボーイング737Max8が墜落。
さらに翌年2019年3月にも同機種が墜落している。これらの墜落事故はソフトウエアの欠陥による急降下が原因だったが、パイロット達はそういった状況に対応する訓練を受けていなかった。
当時、全世界の737Max8は飛行停止に追い込まれた。しかし、最初の事故後のボーイング社の対応は遅かったと見られている。同社は自らの首をさらに絞める結果となった。
ボーイング社は当時、内部調査と品質管理の改善を約束。そして欠陥は修正されたが、明らかに問題はまだ残っている。わずか5年後、新たな品質管理の欠如により、別の機種が飛行停止に追い込まれた。
今回の事故機はどちらもほぼ新品だった。金属疲労を起こすような古い機体ではない。
ニュースによると、ボーイング社もアラスカ航空の両社は、胴体ドアのドアプラグに問題があることを把握していたという。
737Max9は比較的新機種であり、事故機もほぼ新品であったことから、エンジニアはそれらの警告を無視した。新型機種にありがちな細微な不良で、自然に修正される、または簡単に調整できるという認識だった。
だが、そうではなかった。
製造元も航空会社も潜在的な致命的欠陥に対する警告を受けていたのにも関わらず、無視したのだ。
ボーイング社は全世界で170機に及ぶ737Max9型機を飛行停止とした。
杜撰(ずさん)な体制の始まり
ボーイングはいつから道を誤ったのか。その答えは、1997年に競合航空機メーカーであったマクドネル・ダグラスとの合併にある。この合併はボーイングの企業文化を、悪い方向へと変えてしまった。
ボーイング社は、企業理念にも掲げられている「技術開発と品質管理に重きを置く」ことで知られていた。
一方、マクドネル・ダグラスは、収益改善のためにコスト削減と財務革新に重点を置いていた。もちろん、航空機メーカーの柱である品質管理や安全性に全く無関心だったわけではない。
ただボーイング社と比較すれば、財政面をより重視していたと言える。
ところが合併後、ボーインング社の伝統的な社風はマクドネル・ダグラスに侵食されていった。例えば、技術開発部門は大きく縮小され、代わりに財務部門が拡大された。
さらに2010年以降、同社は株価を上昇させるために自社株買いやその他の資金戦略に数百億ドルをも費やした。同時に、同社は巨額の負債を抱えることとなった。
当時の新CEOであるハリー・ストーンサイファー氏は、これらすべては問題ではなくむしろ強みであるとし、誇りに思っていた。
同氏は次のように述べている。
「多くの人が、私がボーイング社の企業文化を変えてしまったと言うが、それこそが私の狙いでした。巨大な技術開発会社ではなく、ビジネスとしての運営を目指しているのです。」
その結果が、数々の事故に結びついたのではないだろうか。安全性の欠如により、2件の墜落事故と今回の危機一髪を招いている。2019年、737Maxのエンジニアだった1人は次のように語った。
「Maxのプログラムは、私が経験したことのないような激しい圧力のもとで行われました。会社側はコストを抑えるため、変更を嫌いました。トレーニング内容を簡素化するため、そしてコスト削減のために変更を最小限にし、早急に完了させようとしていたのです。」
皮肉なことに、同社は無理なコスト削減を試みた代償として、莫大な損失を被ることになった。
木を見て森を見ず
法的賠償は計り知れない。事故機種を全て飛行停止にしたことから、経営上の損失も巨額となるだろう。
欠陥を突き止め、既存の全該当機種を修復し、製造過程にある機種の工程にも変更を加える必要がある。
問題の再発防止のため、新たな安全プロトコルを策定し、パイロット、乗務員、地上要員は将来の問題に備えて再教育を受ける必要がある。航空各社は欠航による損失を埋めるため、ボーイング社に損害賠償を求めるだろう。
ボーイング社の株価は12月15日につけた265ドルから227ドルまで下落している。3週間でおよそ15%の下落だ。
だが同社の株価が事故によって受ける打撃はこの程度では無いだろう。市場価格はいくらか落ち着いたが、以前として調査は続いており、対応するためのコストは著しく過小評価されている。
市場は賢い部分もあるがそうでない部分も多い。時にはウォール街が事実無根に「問題は全て解決した」と言えば、それに踊らされることもある。
この一件の解決にはまだ時間を要し、良くない事実もさらに出てくるだろう。経営陣の交代もあり得るし、株価はさらに下落すると考えられる。
このような企業のリスクに対して、あなたはどのような対策を講じるだろうか?シンプルに「株を買わない」というのはその一つである。あるいは、オプション取引を用いることで、リスクをヘッジすることが期待できる。
さらにはオプション取引によって下落から利益を狙うことも可能だ。オプション取引については、また別途詳細な情報をお送りするつもりである。