相次ぐ銀行破綻…連鎖は終わったどころか始まったばかりだ。
From:ジム・リカーズ
銀行危機は終わったと安堵している人がいる。これまで危機を経験していないのかもしれない。
1974年、西ドイツにあったヘルシュタット銀行が倒産した。そこから数えて今回で実に10回目である。銀行危機はまだ始まりにすぎないのだ。
深堀りしていこう。
3月初め、シルバーゲート銀行が破綻申請した。これに端を発し、ここ1か月ほどの間に次々に銀行が破綻。今では珍しいニュースではないかもしれない。
シルバーゲート銀行は、ブリッジバンクの保険がカバーしている銀行だ。ブリッジバンクとは規制当局が管理する銀行のことである。だが、シルバーゲート銀行は、単なる商業銀行ではない。
暗号資産にも深く関わっていたのだ。
同行は「シルバーゲート・エクスチェンジ・ネットワーク(SEN)」と呼ばれる独自の決済サービスを構築した。24時間年中無休で米ドルと暗号資産を交換ができる。つまり、暗号資産取引所や暗号資産ヘッジファンドに融資していたのである。
2021年11月から2022年11月にかけてビットコインの価格が76%暴落。同行は暗号資産市場の混乱により窮地に陥った。
その後間もなく、暗号資産ヘッジファンドのスリーアローズ、暗号資産企業のジェネシス・グローバル・キャピタルが破綻した。価格変動がほぼないはずの暗号資産であるステーブルコインのUSDコインは一時83セントまで下落。創業者が詐欺容疑で逮捕され、史上最大規模の金融詐欺ともいえるFTXトレーディングの破綻へと広がっていったのだ。
だいぶ前の話にも感じられる。このところ銀行破綻が続いているからかもしれない。
シルバーゲート銀行は、暗号資産だけでなく従来的な銀行にまで「破綻ウイルス」をまき散らしたのだ。
次に犠牲になったのが、シリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー・バンク、クレディ・スイスだ。まだ他にも出てくるだろう。
SVBの破綻は波紋を呼んだ
特にSVBの破綻は、非常に衝撃的だった。2008年に起こった世界金融危機のワシントン・ミューチュアル・バンク以来の最大の銀行破綻である。
3月10日、1,000億ドル以上の銀行預金が消え去った。
3月12日、わずか48時間後、ブリッジバンクによって復活した。
ブリッジバンクが法律で保護できる被保険預金額の上限は25万ドルである。
一体何が起こったのか。
連邦準備制度理事会(FRB)、米国財務省、ブリッジバンク、ホワイトハウスは共同で、緊急措置を発表した。
ブリッジバンクがすべての預金を保護できるようになった。つまり、被保険預金額の上限が完全に崩壊したのだ。
ブリッジバンクに30億ドルを超える預金をしていた企業もあった。SVBの預金者には、シスコ・システムズ (CSCO)、ロク (ROKU)、 ヴォックスといったシリコンバレーの多くの大手企業も名を連ねていた。
政治的側面を見逃してはならない
2月3日、オハイオ州のイーストパレスティンで列車の脱線事故が起こった。有害化学物質によるキノコ雲が発生し、ダイオキシンが水に流れた。しかし、周辺住民はまったく援助を得られなかった。一方で、シリコンバレーの大手企業はすべて保護された。
緊急措置発表と列車の脱線事故。この二つの出来事には注目すべき点がある。
SVBの預金者のほとんどが民主党だった。
イーストパレスティンの住民はほとんど共和党だった。
そのためイーストパレスティンの近隣住民は援助を得られなかったのだ。
こういった政治的な優遇措置は、今に始まったわけではない。それがホワイトハウスのやり方なのだ。
1930年代に米国のフランクリン・ルーズベルト政権により実施されたニューディール政策では、連邦政府による州への援助は、実際の必要性よりも政治的打算や選挙政治を重視する傾向があった。
SVB の主な規制当局はFRBである。破綻の理由は内部のリスク管理の欠如だけではない。明らかにFRBが見過ごした深刻な過ちがあったのだ。
この歴史的な破綻劇でFRBは責任者の解雇や懲戒処分をしていない。銀行監督担当であるマイケル・バー副議長はなぜ解任されなかったのか。いかにもワシントンのやり方だ。
FRBはずっと監視していたのか?
「SVBの業務は破綻する1年以上前からFRBの監視下にあった」とニューヨーク・タイムズ紙が報じている。
本当だろうか。
FRBはずっと監視していたように見せかけていた。そう見えるように公に吹聴していたのだ。
SVBはFRBから「容易に入手できるはずの十分な現金の確保に失敗」し、「管理体制に問題がある」と評されていた。
次に何が起こったのか。
何も起こっていない。FRBが数回警告通知を送った。それだけだ。
資金管理上の欠陥が分かったとき、なぜ買収されなかったのか。
経営陣を交代させ、早急な改善策をなぜ講じなかったのか。
FRBは警告通知を何度も送った。自分たちが監視していたと示すためだ。しかし、実際にはその逆である。FRBの官僚たちはフリだけで、実際には何もしていなかった。
このSVB破綻の最中に、ファースト・リパブリック・バンクの支援騒動が起こった。
ベイルアウトの出番か
ファースト・リパブリック・バンクは、明らかに財政的に逼迫していた。理由は預金の流出と水面下の長期保有資産。だが、実際に破綻したわけではない。
米大手11銀行のコンソーシアム(共同事業体)が、同行の資金の流動性を強化するために救済したのだ。
JPモルガン・チェース、シティバンク、バンク・オブ・アメリカ、ウェルス・ファーゴ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、PNCファイナンシャルサービシズ、U.S.バンコープ、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン、ステート・ストリート、トゥルーイスト・ファイナンシャル(旧サントラスト)の11銀行は合同で総額300億ドル預金した。
民間の銀行が全ての資金を提供した。事実上、国民負担となる政府の公的資金投入などを伴う救済ではなかった。FRBはこの救済を傍目で伺っていただけだったのである。
1998年に私が交渉に関わったヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の救済と酷似している。
LTCMの救済もFRBによって奨励されていた。だが、実際には民間の銀行で行われた。資金はファースト・リパブリック・バンクを救済した少なくとも7銀行を含む、14銀行のから提供されたのである。
ファースト・リパブリック・バンクおよびLTCMの救済は、モルガン財閥の創始者であるジョン・ピアポント・モルガン氏が1907年の金融恐慌の際に考案した救済計画に基づいていた。民間の銀行が資金を提供する。1907年から今日に至るまで、政府の資金を使わずに金融恐慌を終わらせるにはこの方法が最良とされている。
単に破綻を先延ばしにする
救済に関して、LTCMとファースト・リパブリック・バンクには決定的な違いが1つある。
LTCMの救済は、すべてが資本で負債はなかった。ファースト・リパブリック・バンクの救済は すべてが負債で資本はなかった。
大きな違いだ。
つまり、それは本当に救済したのではなく、単に「応急処置」をしただけに過ぎない。時間を稼げても、危機は免れない。破綻を遅らせた。それだけだ。
銀行危機は、何度か静寂期間を経て、数段階にわたって進行していく。このような静寂期間でも現状に安心すべきではない。
今後、ファースト・リパブリック・バンクの救済についての続報を耳にするだろう。そして、これが最後ではないのだ。
今後も動きがあれば、追加の見解をお届けする。
〜編集部より〜
現在、ジム・リカーズさんが行った最新の調査結果を公開しています。