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MMTは政治兵器として運用され、株式市場にも”津波”を起こす

From:ジム・リカーズ

ジム・リカーズは、ウォール街で40年の経験を持つ金融・経済の専門家。地政学に精通している彼は、地理的な条件から、軍事や外交、経済を分析することを得意とする。実際、米国における彼への信頼は非常に厚く、CNBC、ブルームバーグ、ウォール・ストリート・ジャーナルといった世界的なメディアに数多く出演し、政治問題や経済の動向について提言を求められてきた。さらに彼は、ホワイトハウス、CIA、国防総省の元顧問である。2008年にはリーマンショックの発生を予測し、CIAに対して助言を行っていた。彼のもう一つの肩書きは、5冊のベストセラー本の著者。その著書には『The New Case for Gold』(邦題:いますぐ金を買いなさい)や『The Death of Money』(邦題:ドル消滅)がある。政府機関が信頼を置いてきた彼の予測や提言は、きっとあなたの金融知識の向上、ひいては資産形成にお役立ていただけるだろう。

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現代貨幣理論(MMT)をご存じだろうか。

MMTの主な考え方は、米国連邦準備制度理事会(FRB)が自国通貨を発行できるため、負債や財政赤字が拡大しても問題ないというものだ。

2018年、MMTは金融・財政政策の専門家の間で大流行していた。何のデメリットもなく、好きなだけ支出できるという理論は、あらゆる可能性の中で最高のもののように思えた。

それから、少しの間、MMTは下火であった。話題に上がることもなかったが、MMTは政治兵器として密かに運用されてきたのだ…

史上最大の債務がのしかかる米国

新型コロナウイルス救済処置と景気刺激。それがMMTに与えられた最初の仕事だった。議会は2.7兆ドルの新規支出を行うことに。すべての米国人が対象の給付金1,400ドルも含まれていた。2020年12月21日、トランプ氏は9,000億ドルの追加経済支援法案に署名。さらに600ドルを支給した。


負けじと、バイデン新政権は2021年新型コロナ対策法を可決。1.9兆ドルの赤字支出を行ったのだ。同対策法により、さらに1,400ドルが給付された。

出所:CBS NEWS

支出の暴走はとどまらなかった。2021年11月15日、バイデン大統領は1兆ドル超の「インフラ投資・雇用法」に署名した。

出所:BBC NEWS Japan

続いて、7,370億ドルの新たな赤字支出を断行。2022年8月16日、バイデン大統領は「2022年インフレ削減法(IRA)」にも署名したのだ。

出所:CNN Politics

米国の債務残高対GDP比は、トランプ政権発足時は106%という危険な水準であった。ところが現在では、124%前後という米国史上最高レベルに達している。

ちなみに、債務残高対GDP比が120%付近の国は、他にレバノン、ギリシャ、イタリアなどがある。米国は今や、本格的な債務不履行クラブの一員なのである。

出所:world economics

このような負債と財政赤字の暴走は、MMTが本来の目標を達成したといえるのだろうか?

答えは、「イエス」であり「ノー」でもある。

神話の崩壊

「イエス」の理由は、簡単に説明できる。MMTは、支出や財政赤字は問題ではないとしている。米国は好きなだけ債務を発行し、好きなだけお金を使うことができるのだ。

債務がドル建てで、FRBが米ドルの発行権を持っている限り、いつでも新しく貨幣を発行し、返済することができる。

3年間で10兆ドルの新規債務を抱え、債務対GDP比124%の米国は、確かに債務や財政赤字が問題でないかのように振舞っている。これこそ、MMTの本質である。

一方、「ノー」という答えは、もっと複雑で、政治的だ。米国がMMTに従って行動しているのは事実だ。しかし、MMT支持者たちはそのことを声高には語らない。

なぜだろうか?

支持者たちは自分の望むものを手に入れている。共和党も従っている。トランプ氏は任期最後の年に4.6兆ドルの赤字を増やした。2020年以降、トランプ氏とバイデン大統領を合わせた総増加額10兆ドルのほぼ半分を占めている。共和党と民主党がMMTに従って行動しているのであれば、議論する必要すらない。

つまるところ、米国はMMTを完全には認めていない。よく理解もしないまま、ただ実行しているというわけだ。MMTは運用されているが、政治的には認められていない。MMTの未来は、今まさに、天秤にかけられているといえるだろう。

政治兵器としてのMMT

米国は債務上限の危機を迎えている。

米国憲法には、債務上限がない代わりに、法令が存在する。しかし、その法令に拘束力はない。

債務上限自体は議会で廃止することもできる。その場合、国の債務規模に制限はなくなるのだ。

しかし、議会は債務上限というアイデア自体に固執している。ホワイトハウスと財務省は、必要に応じて随時議会で増額の要求をしているわけだ。(法的な規制はないにもかかわらず)

債務上限を引き上げる見返りとして議会が手にするものは、政治的譲歩を行使する力だ。債務上限は、マクロ経済政策上の重大な手段ではない、むしろ政治闘争に勝つために利用されるためのものなのだ。

最終的に、議会は上限引き上げを承認する。いわば、債務上限の議論はすべて見せかけなのだ。債務上限は、“財務省が新たな債務を発行できない”という意味ではない。正しくは、発行残高を上限以上に増やすような債務を、財務省は発行できないということだ。

迫り来る「Xデー」

“Xデー“は、財務省が全ての現金を使い果たし、請求書の支払いや財務省証券保有者への返済ができなくなる日のことだ。今のところ、2023年6月5日頃になると見込まれる。

注目すべきは4月中旬の税制改正のタイミングだ。この時に財務省がどれだけプラスのキャッシュフローを生み出すかが、Xデーがいつになるかを決めると言っても過言ではない。

4月中旬は、市場が予算問題に注目する時期でもあるのだ。

4月頃にはXデーの見通しが立ち、一種の「デフォルト(債務不履行)へのカウントダウン」が始まる。

このような状況の中で、MMTの支持者はどのような立場にいるのだろうか。

隠れミノとしてのMMT

前述のように、MMTの支持者は、密かに政治的に望むものを手にしてきた。新型コロナウイルス感染症と気候変動は最高の追い風であっただろう。借金や財政赤字を気にかけないトランプ氏とバイデン大統領の支出を隠すための完璧な隠れミノとして機能したわけだ。

米国政府の持説は「使え、使え、使え」であり、まさにその通りになった。

パンデミックが終わり、グリーンウォッシュが(良くも悪くも)法律となった今、清算の日がついに来た。債務上限が引き上げられ、大幅な改革なしに赤字国債が増発されたとしよう。なぜ問題にならないのかを説明するのは、MMT支持者に任されることになる。

しかし、MMT支持者はうまく対処するだろう。MMTは、FRBが自国通貨を発行できるので、債務や財政赤字は問題ではないという考え方だ。インフレになれば、政府は増税してインフレを抑えれば良い。

もちろん、MMTは完璧な解決策ではない。国会議員がMMTを理解していなないということは、その欠点も理解していないことだ。とはいえ、もう後戻りはできない。今後数か月間、債務上限や予算の争奪戦が繰り広げられる中で、「財政赤字は問題ではない」「借金は問題ではない」という解説が多く聞かれるようになるだろう。
 
ここで、1つ確かなことがある。

デフォルトにはならない

財務省がデフォルト(債務不履行)に陥ることはない。今後数か月の間に、債務不履行に関する記事をたくさん目にするだろう。有権者を脅して「クリーンな」債務上限の引き上げをさせることが目的だ。
 
こうした言説は無視して構わない。債務上限の議論は、保守的な共和党とホワイトハウスのチキンレースだと見るくらいがちょうど良い。
 
最終的に、共和党は自分たちの望むものの一部を手に入れ、債務上限は引き上げられるだろう。そうして、この問題の解決は先延ばしされる。

予算の成立はさらに複雑である。予算と一口に行っても中身は多岐に渡る。そして、債務発行だけでなく、歳出増、国防費、ウクライナ支援、社会保障制度、増税など、さらに多くの問題を抱えている。
 
予算の期限は9月30日だ。しかし、議会は7月と8月の間に何かを成し遂げようとするだろう。つまり、債務上限とXデーの危機がほぼ同時期にやってくるということだ。
 
その結果、株式のボラティリティは高くなるだろう。株価は大きく乱高下することが予想される。全体として、今年は興味深い年になりそうだ。

少なくとも投資家は、債務不履行の話が大きくなるにつれて、市場のボラティリティが高まると予想できる。株式投資の割合を減らし、現金の配分を増やすには良い時期なのかもしれない。

P.S.
著者のジム・リカーズについては、こちらで詳しくお伝えしています。

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