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【ゴールド特集④】 未来を担う金:実は金がイノベーションの着火剤だった?

人類が初めて使用した金属とも言われる「金」

人は古代から金の輝きに魅了され、工芸品や装飾品、または通貨として使用してきました。史上最古の文明のひとつ、メソポタミア文明では、世界最古の金の工芸品が見つかっています。

ヴァルナの墓地遺跡から出土した世界最古の黄金の工芸品
(紀元前4600年~紀元前4200年)
出所:チェルノリゼツフラバル(2018)/CC BY-SA 4.0

昔は実用品としてあまり使用されなかった「金」ですが、現在では半導体やLEDなど、様々な用途で使用されています。しかし、それだけではありません。実は、技術の最先端に「金」がいることをご存知でしょうか?今日は金の意外な3つの用途をご紹介しましょう。

1.宇宙服


宇宙空間では金が必須なのですが、一体どこに使われていると思いますか?

答えは「宇宙服のヘルメット」です。

下の写真は1969年、ニール・アームストロングが月面に足を踏み入れた時に着用していたヘルメット。彼が「人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩だ。」と言ったとき、頭には極薄の金でコーティングされたヘルメットをつけていました。

出所:Steve Jurvetson from Menlo Park, USA/CC BY 2.0

ヘルメットが金でコーティングされている理由は、宇宙空間での厳しい太陽光や放射線から目を保護するため。金は高い反射率を持ち、人間に有害な光を反射することができるのです。

しかし、有害な光線を防ぐために金属でコーティングを行い、前が見えなくなってしまっては意味がありません。

そこで白羽の矢が立ったのは、金が持つ展性(薄く広がる性質)。金は、金属の中で最も大きな展性を持ち、厚さはなんと0.0001mmまで伸ばすことができます。

実はその他にも、金の高い反射率を利用して作られた望遠鏡が、NASAで使用されています。

出所:NASA

現在、イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏など、巨大企業の創業者がこぞって開発を進める宇宙。モルガン・スタンレーによると、20年後の宇宙ビジネスの市場規模は、およそ150兆円に及ぶと言われており、今後にも期待されています。

出所:産経新聞

そんな宇宙開発を進める上で、これからも金が必要不可欠になってくるでしょう。

2.医療現場

医療現場でも、金は様々な活躍が期待されています。

例えば、40年以上ずっと、日本人の死因として第1位となっている癌(がん)。この癌の診断に金が使用されていることを知っていますか?

「金ナノ粒子」と呼ばれる、直径がわずか数十億分の1mの金原子でできた小さな球体は、癌の DNAに引き寄せられる独特の構造をしており、癌のDNAに反応して粒子の色が変わるという特性を持ちます。

この変化は素早く検出できるため、簡易的かつ迅速にがん検査ができるようになると期待されているのです。

これにより、わずか10分程度で癌が検出できるようになり、「癌診断に革命をもたらす可能性がある」と言われています。

出所:田中貴金属HP

他にも「スーパーバグ(超多剤耐性菌)」と呼ばれる、既存の抗生物質が効かない細菌への治療法としても金が注目されています。

スーパーバグとは、医薬品などを通じて、人々が抗生物質を過剰摂取することで、複数の抗生物質に耐性ができた細菌のこと。その治療は極めて困難と言われ、どんな抗生物質を使ってもその増殖は抑制できません。

出所:CNN

WHOによると、このスーパーバグによる感染症によって、世界中で年間推定70万人が亡くなっています。もし今後、何も対策を講じなければ、2050年までにおよそ1,000 万人まで増加すると予測されているんです。

つまり、死者数は今後、約14倍にも膨らむかもしれません。

ですが、このスーパーバグに対し、金をベースとした19種類の化合物を使って実験したところ、化合物のうち 16種類(約84%) が治療に有効であると証明されました。

この研究を行ったスペインの研究者は「研究したタイプの金錯体は、比較的簡単で安価に製造できる。金ベースの抗生物質の未来は明るい」と述べています。

そんな医療にも用いられている金。これにも、金の優れたいくつかの特性が関係しています。

1つは、生体適合性
金は、生き物と親和性が高いことで知られており、体内で毒性を持ったり、副作用を引き起こしたりする可能性が低い。そのため、金ベースの化合物は患者に悪影響を及ぼしづらく、医療用途に適しています。

もう1つは多用途性
金は、独特の物理的および化学的特性を持ち、さまざまな医療用途に使用可能。ナノ粒子やコーティングなどの用途で、形状を簡単に操作できるため、ドラッグデリバリー、診断、組織工学、その他、幅広い用途が可能です。

このように、生き物に優しく、多機能なことから、医療の現場でも活躍が期待されているのです。

3:F1(カーレース)

最後に取り上げるのはF1です。

新型コロナウイルスの感染状況も落ち着きを取り戻し、今年のF1日本グランプリを開催した鈴鹿サーキットには4万2,000人が来場するなど、盛り上がりを見せました。

そして、このスーパーカーにも金が使われています。しかも、使用されているのはF1で何度も優勝し、史上最高のロードカーと名高いマクラーレン。

出所:Chelsea Jay(2019)/CC BY-SA 4.0

このボンネットの中は金で覆われているのです。

出所:Sfoskett(2005)/CC BY-SA 3.0

一体、なぜなのでしょうか?

F1で使われるスーパーカーは、平均時速230kmのスピードで走り、最高時速は300kmを超えることも珍しくありません。その結果、エンジンは超高温になり、機材には放熱性が求められます。

ここで活躍したのが金の熱伝導率の高さです。放熱性の高い22金の金箔を使った耐熱フィルムで覆うことで、エンジンを守ることができたのです。

さらに、金は素材の中で、最も軽く、効果的に断熱することができたため、F1との相性もピッタリ。このエンジンルームには、約16グラムの金が使われています。

このように、他の金属にはない属性を持つ「金」。だからこそ、世界中の先端技術で必要とされていることがわかります。

現在、金の技術用途はおよそ7%ほど。

しかし、今後伸びていく可能性も高いと言われています。というのも、技術面での用途は、ほとんどがここ20~30年で開発されたものだからです。

まだ、技術目的としての金の歴史は浅く、今後の用途が楽しみですね。

こうして金は安全資産として、もしくは通貨として、はたまたイノベーションの火種としても、今後の需要が増加すると期待できます。ぜひ、何に使われているかにも注目してみてください。

P.S.

次の記事はこちらからご覧いただけます。

→ゴールド特集第5弾をみる


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