イスラエル紛争の拡大が招くもの
From:ジム・リカーズ
パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模な攻撃は、世界に衝撃を与えた。これまでのところ、約1500人の死亡が確認されている。その数は増える一方だろう。
現時点では判明している事は少ないが、イスラエルの情報網に大きな穴があった可能性がある。同国の情報網は優れていると知られているだけに、このこと自体にも驚きを覚える。
裏を返せば、ハマスは独自の徹底した情報管理により、綿密に計画した攻撃を事前に悟られずに実行できる能力があると証明したことになる。
攻撃は空、陸、海から行われた。イスラエル側はハマスに宣戦布告。「イスラエルの9.11」と呼ばれる今回の奇襲の動機は何なのか?
繰り返すが、まだ多くが闇の中だ。しかし、いくつかの証拠が出てきている。ハマスのスポークスマンは、イランが攻撃を支援した功績を評価している。これは決定的な証拠ではないが、この作戦にイランが関与している可能性は十分にある。
イランはイスラエルと対立するハマスの活動を長年にわたって支援してきた。だがなぜ今、イランがイスラエルへの攻撃を支援するのか?
国交正常化はギャンブル
1番に考えられる理由は、イスラエルとサウジアラビアの和平交渉を妨害することである。イランは両国間にある亀裂をそのままにしておきたい。イスラエルとサウジアラビアの協議は最近進展しつつあったため、テヘランはこの攻撃を利用し、それ以上の進展を阻止したかった。
イランがこれによって得るものは何か?
サウジアラビアはパレスチナの独立を支持している。イランは、ハマスの攻撃によって、ハマスが拠点とするガザ地区に対しイスラエルが大規模な報復を行うことを予測できた。サウジアラビアがパレスチナの味方をすることになれば、同国とイスラエル間の溝は拡大する。
イランはイスラエルとサウジアラビアが友好的になることに対して露骨に敵意を示している。先週、イランの最高指導者ハメネイ師は、「イスラエルとの関係正常化を目指す国は、負けると決まっているギャンブルに賭けるようなものだ。」と述べた。
この発言は主にサウジアラビアに向けられたものだった。この発言からまもなくしてハマスはイスラエルを攻撃。
イランの目論見は成功したようだ。今日、サウジアラビアはアントニー・ブリンケン米国務長官に、イスラエルとの関係正常化交渉をすべて打ち切ると通告した。
紛争拡大が招くもの
それ以上に危険なのは、紛争の拡大だ。イランは、レバノン南部を拠点にするイスラム教シーア派組であるヒズボラの後ろ盾でもある。
ヒズボラがイスラエルの陣地に発砲した後、イスラエルとヒズボラの砲撃戦が繰り広げられた。この交戦が紛争拡大につながれば、イスラエルはガザ地区とレバノン南部の「二正面作戦」を迫られる。
イスラエルがイランを直接攻撃する可能性さえあり、地域戦争の引き金になりかねない。
仮にイスラエルが大規模戦闘を長期的に行わなくてはならなくなった場合、同国にとって武器弾薬の不足が足枷となる可能性がある。
米国はウクライナを支援するため、今年初めにイスラエルに備蓄されていた155ミリ砲弾30万発をウクライナのキーウに送ったと報じられている。これらの砲弾はイスラエルが必要とした場合に備えてのものだった。
イスラエルの備蓄は20%程度しか残っていないかもしれない。イスラエルが西部のハマスと北部のヒズボラに対して二正面作戦を展開することになれば、この不足は深刻だ。
イスラエルには非常に強力な空軍があり、大量の弾薬を投下することができるが、爆弾は砲弾よりもはるかに高価であり、大砲ならではの持続的なダメージを与えることはできない。
このことは、ウクライナでの戦況が世界の他の地域の軍事バランスに影響を与えていることを示している。
また、ハマスの奇襲はイスラエルの情報網だけでなく、米国の情報網に欠陥があったことの表れなのかもしれない。米国はウクライナ危機に没頭するあまり、中東を含む他の地域を軽視する傾向にあったからだ。
世界経済の鍵を握る原油価格
イスラエルへの奇襲がもたらす経済への影響も考慮しなければならない。原油価格は4%上昇し、86ドルを超えた。
紛争が拡大すれば、原油価格は劇的に上昇する可能性がある。戦略上極めて重要なホルムズ海峡を通る石油輸送が停止すれば、原油価格は20ドル、30ドル上昇する可能性がある。
すでに不調を見せている世界経済にとって、原油価格の高騰は、米国を含む各国経済を簡単に景気後退に引き摺り込むだろう。
EUはすでに不況に陥っており、日本と英国はゼロ成長を推移しながら早足で不況に向かっている。EU内では、ドイツとアイルランドでそれぞれ景気後退が起きており、イタリアとフランスはかろうじてゼロ以上の成長を示している。
そして中国だ。中国で本格的な景気後退が起こるという考えには賛同できない方も多いかもしれない。だがそれは目の前で起きている事に気づいていないだけかもしれない。
ばかげたゼロコロナ政策の終了後、経済が「再開」するという信じがたいシナリオが囁かれていた。ウォール街ですら、そのシナリオの誤りをデータがはっきりと示すまで、それを信じて続けていた。今日、中国経済はそのシナリオを下回っているだけでなく、紛れもなく縮小に向かっている。
さて、EU、中国、日本、英国、その他多くの国が景気後退、もしくはそれに近い状態にある中で、果たして米国だけがそれから逃れることができる、とお思いだろうか。
〜編集部より〜
現在、ジム・リカーズさんが行った最新の調査結果を公開しています。