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AIは悪者の手にわたった。フェイク画像で株価暴落?

From:ジム・リカーズ

ジム・リカーズは、ウォール街で40年の経験を持つ金融・経済の専門家。地政学に精通している彼は、地理的な条件から、軍事や外交、経済を分析することを得意とする。実際、米国における彼への信頼は非常に厚く、CNBC、ブルームバーグ、ウォール・ストリート・ジャーナルといった世界的なメディアに数多く出演し、政治問題や経済の動向について提言を求められてきた。さらに彼は、ホワイトハウス、CIA、国防総省の元顧問である。2008年にはリーマンショックの発生を予測し、CIAに対して助言を行っていた。彼のもう一つの肩書きは、5冊のベストセラー本の著者。その著書には『The New Case for Gold』(邦題:いますぐ金を買いなさい)や『The Death of Money』(邦題:ドル消滅)がある。政府機関が信頼を置いてきた彼の予測や提言は、きっとあなたの金融知識の向上、ひいては資産形成にお役立ていただけるだろう。

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ChatGPTと人工知能(AI)が話題だ。
 
実際AIとGPTの組み合わせは、今日の株式市場に好パフォーマンスをもたらすほぼ唯一の原動力となっている。
 

AI/GPTの高度な機能を備えた少数の企業(マイクロソフト、エヌビディア、グーグル、アップル、その他数社)は急騰。理由には、新しいテクノロジーによってもたらされる利益と生産性への期待が挙げられる。
 
もしAI/GPT関連銘柄を株式市場の指標から外した場合、残りの銘柄では年初来で下落するだろう。このパフォーマンスがバブルなのか、それともファンダメンタルズに基づく真の飛躍なのかは、まだわからない。
 
歴史上、投資の流行は消えていく。
 
とは言え、インパクトがあるのは間違いない。一方、GPTには、急速に表面化しつつあるダークな面がある。

悪者にとっての朗報

悪者はGPTのスピードと包括性を利用して、偽の画像やコンテンツを作成。そして、それをソーシャルメディアや主流のチャンネルに流し、市場の暴騰や暴落を引き起こすことができる。
 
つまり、相場操縦者やインサイド・トレーダー、地政学的敵対者にとって、GPTはこれまでに発明された最高のツールの1つなのだ。
 
最近の事例を紹介しよう。
 
5月22日、ゼロヘッジ、フェイスブック、ツイッター、その他いくつかのメディアチャンネルに、ペンタゴンの近くで大きなビルが燃えているという記事が掲載された。そして、テロ攻撃が行われているのではないかという憶測を生み出した。

出所:CNA

その後、株価はすぐに下落。しかし数分後には、この火災の写真は偽物であると判明したのだ(窓の一部が均一ではなく不規則な形をしていたため)。
 
実際、この話はすべてフェイクだった。
 
煙が立ち込めるビルの画像は、AIによって生成されたものだった。投資家は、市場操作となりうるAIによるパニックに慣れる必要がある。
 
AI/GPT技術はすでに悪者の手に渡っている。この1件のフェイクがすぐに見破られたからといって、彼らがその利用をやめるとは思えない。

コンピュータ vs. コンピュータ

ほとんどの株式取引は、ニュース速報のキーワードを探すために準備されたコンピュータによって行われる。今回の事件は、偽の写真とニュースを使って報道された内容に基づいて、コンピュータが株を売却したのだ。
 
AI/GPTを高度な武器として使ったコンピュータ vs. 売買を行うコンピュータの戦いである。それがなぜ潜在的に危険なのだろう。

今日、株式市場や債券、為替などの他の市場は、「自動化されたオートメーション」と表現するのが最も適切である。
 
株式投資は2つの段階を踏む。第一段階では、株式、現金、債券などの間で好ましい分配を考える。この段階では、インデックス商品や上場投資信託(ETF)にどれだけ投入するか、アクティブ運用をどれだけ行うかを決める。
 
第二段階では、実際の売買を決定する。いつ売却するか、いつ参入するか、いつ中期国債や金などの安全資産で傍観するかを見極める。
 
この2つの判断が、今や完全にコンピュータに委ねられている。しかし、投資家はそれに気づいていないかもしれない。コンピュータが売り手と買い手の注文をマッチングして取引を実行するという意味ではない。そのような取引は1990年代から行われている。

私が言っているのは、ポートフォリオの資産配分や売買の決定を、アルゴリズムに基づいてコンピュータが行い、人間がまったく関与しない取引のことだ。これは今や当たり前になっている。

アクティブ投資の終焉

現在、株式取引の80%以上が自動化されている。その内訳は、市場全体の値動きに連動する「インデックスファンド」が60%以上、数学的手法を用いて市場や戦略を分析する「クオンツ運用」が20%以下だ。つまり、自分で配分やタイミングを選ぶ「アクティブ投資」は、市場の2割以下にまで減っている。アクティブ投資家でさえ自動実行を行っているくらいだ。

全体を見渡すと、従来の意味での人間によるマーケットメイク(値付け業者が売りと買いの気配値を提示し、投資家の売買を成立させる方法)は、取引全体の5%程度にまで減っている。このトレンドは、2つの誤った認識に起因する。
 
1つ目の誤りは、「市場には勝てない 」という考え方だ。これが、市場と同じ値動きをするインデックスファンドに投資家を向かわせる。実際には、優れたモデルを使えば市場に勝つことはできるのだが、簡単ではない。
 
2つ目の誤りは、「長い目で見れば未来は過去と同じなのだから、例えば株式60%、債券30%、現金10%(年齢が上がるにつれて株式を減らす)という従来の分配がうまく機能する」という考え方だ。
 
しかし、ウォール街は、1929年、2000年、2008年に起こったような50%以上の暴落があなたの退職直前に再び起こり、ポートフォリオを台無しにする可能性については教えてくれない。
 
アクティブ投資の減少。これはほとんど考慮されない、大きな脅威なのだ。 

火事だ!出口に向かえ!

強気市場において、インデックスファンドが人気銘柄(例えば最近のエヌビディア、グーグル、アップル)に殺到し成長すれば、パッシブ運用は相場上昇の恩恵にあずかる。しかし、パッシブ投資家は、銘柄のファンダメンタルズを考慮せず一斉に出口に向かうため、ちょっとした下落で大混乱に陥る可能性があるのだ。
 
例えば、混雑した劇場で「火事だ!」と叫べばどうなるだろう。AIが誤報を発すれば、投資家は出口に殺到する。
 
そしてインデックスファンドも株式を売却するだろう。パッシブ投資家は、不安定な市場はアクティブ投資家に新たな投資機会をもたらすと考える。しかし、ここが問題だ。相場が落ちている時に自分勝手な相場観で株を買い、資本を危険にさらすようなアクティブ投資家。彼らは、もういないのだ

株は買われることなく、急落するだろう。市場の暴落は、ブレーキのない暴走列車同同然だ。すべては複雑性に帰結する。市場は複雑系の一例なのだ。
 
複雑系の正式な特性のひとつに、起こりうる最悪の出来事の大きさは、システム規模の指数関数というものがある。つまり、複雑なシステムの規模が2倍になると、世の中に大混乱を及ぼす可能性(システミック・リスク)は2倍になるのではない。それどころか、10倍以上になる可能性がある。
 
AIが生成する「フェイクニュース」の出現は、こうした市場の動きを増幅させる。

技術が進歩すればするほど、そして必然的に、現実と虚構の区別がますます難しくなっていくだろう。
 
そして、ペンタゴンの近くで起きた火災のような嘘を見抜くのは、より難しくなる。
 
投資家は、保有するポートフォリオが大きなダメージを受ける前に、こうした技術的な発展を理解する必要がある。
 
脅威はなくならない。これだけは確かだ。

〜編集部より〜
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