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対立が深まる世界で投資家が守るべき3つのルール

Financial ダイレクト | 経済メディア

From:ジム・リカーズ


ジム・リカーズは、ウォール街で40年の経験を持つ金融・経済の専門家。地政学に精通している彼は、地理的な条件から、軍事や外交、経済を分析することを得意とする。実際、米国における彼への信頼は非常に厚く、CNBC、ブルームバーグ、ウォール・ストリート・ジャーナルといった世界的なメディアに数多く出演し、政治問題や経済の動向について提言を求められてきた。さらに彼は、ホワイトハウス、CIA、国防総省の元顧問である。2008年にはリーマンショックの発生を予測し、CIAに対して助言を行っていた。彼のもう一つの肩書きは、5冊のベストセラー本の著者。その著書には『The New Case for Gold』(邦題:いますぐ金を買いなさい)や『The Death of Money』(邦題:ドル消滅)がある。政府機関が信頼を置いてきた彼の予測や提言は、きっとあなたの金融知識の向上、ひいては資産形成にお役立ていただけるだろう。

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世界は崩壊しつつあるのだろうか?そのように見えるかもしれない。

もちろん、戦争は常に地球上のどこかしらで起こっていて、紛争の火種になりそうな場所は爆発する時を待っている。それが世界の定常状態だ。しかし、紛争がより激しいか、より多いか、あるいはその両方であるために、はるかに危険な時期もある。

このような状況における最良の分析アプローチは、単に紛争のリストを作成することではなく、それらの相互関連性を検討し、危機の拡大のリスクを測ることである。1960年代のベトナムの時のような単発の戦争に過ぎないのか、それとも第二次世界大戦の前のように、本当に破滅的な事態に瀕しているのか?

第二次世界大戦のような破滅的な結果を考える場合、それに先立って、悪く、長い一連の出来事があり、それが戦争に至ったことを思い出すことが重要である。

それらは、日本の満州侵攻、イタリアのエチオピア侵攻、ドイツによるオーストリア占領とチェコスロバキアの一部併合、スペイン内戦などである。ほとんどの人は、これらの出来事は無関係だと考えていた。

ウィンストン・チャーチルを筆頭とする少数の政治家だけが、これらはすべて新たな世界大戦につながる階段であると見抜いていた。

 

戦争の連鎖

このような時、投資家は単なる傍観者ではない。まったく異なる危機の関連性に正しく気づき、それがどこに向かっているのかを見抜く予測分析手段を持つ者が、富を築くことも失うこともあるのだ。

以下は、今日の重大な紛争の概要であり、その関連性は強く、危機拡大のリスクは高いことを示唆している。最後に、ポートフォリオのリスク管理に関する提言も述べている。


ウクライナ情勢

出所: CSCR

ウクライナでの戦争については、これまで何度も書いてきたので読者の皆さんもその概要はよくご存じだろう。ここでは、2008年以降の米国による挑発行為とロシアの反応の歴史をすべて振り返ることはしない。

現在の状況を簡単に言うと、6月4日に開始されたウクライナの攻勢は完全に失敗した。ロシアの防衛線は無傷であり、ウクライナは、自軍が全滅し、装甲車の装備損失が甚大となったグレーゾーンのさびれた村を除けば、目立った領土を獲得していない。

米国の対応は和平交渉の開始ではない。それどころか、米国はさらなる武器輸送と資金提供を続けている。バイデン大統領の目標は、敗北を認めなくてもいいように、2024年11月の大統領選挙を過ぎても戦争を継続させることだ。

危険なのは、米国が戦争継続のための支援増強(F16戦闘機、エイブラムス戦車 、水上ドローン 、現場の軍事アドバイザー)に走り、それがロシアの反応(極超音速ミサイル 、北部での新たな攻勢)につながり、状況のエスカレーションによって双方が核兵器使用に近づくことだ。


コソボとセルビアの対立

出所:Daily Sabah

これは、1912年から1913年にかけての第一次世界大戦の発端に遡るバルカン紛争の長いリストの中の一つの出来事である。最新の火種は、コソボとセルビアの対立だ。

コソボは2008年にセルビアからの独立を宣言したが、セルビアは現在に至るまでこれを認めていない。両者の関係は、EUと米国の仲介により安定していたが、最近になって、9月下旬に起こったコソボでのセルビア人による「テロ攻撃」とその後の国境でのセルビア軍の集結により、緊張が高まっている。

セルビアはロシアの長年の同盟国である。しかし、地理的には、セルビアはNATO加盟国(スロベニア、クロアチア、ハンガリー、ルーマニアなど)に囲まれている。

一方で、セルビアがコソボの支配権を取り戻せば、このNATO包囲網にくさびを打ち込むことになる。そうなった際のリスクは、コソボとセルビア間の戦争だけでなく、それが米ロ間のもうひとつの代理戦争となり、ウクライナ戦争の余興となることだ。

繰り返すが、緊張が高まるリスクは大きい。


イスラエル対ハマス

出所:Washington Post

10月7日にハマスがガザからイスラエルに仕掛けた奇襲攻撃は、1973年のヨム=キプール戦争(第4次中東戦争)以来、前例のない規模だった。実際、この攻撃はヨム=キプール戦争からちょうど50周年の日に起こった。そして1973年以来初めて、イスラエルは公式に宣戦布告した。

現場のイスラエル国防軍(IDF)や元諜報将校から得た多くの情報を含め、当初の詳細は恐ろしいものだった。ハマスの戦闘員は家々を回り、女性や子どもを含む民間人を殺害した。

報道によれば、10月7日の襲撃により、少なくとも1,400人のイスラエル人が殺され、イスラエル人や外国人を含む約200人が人質に取られた。捕らえられた人々は軍服を着た兵士ではなく市民だったので、国際法上、彼らは戦争捕虜(Prisoners of War)ではない。彼らは人質なのだ。

イスラエルの反応は大規模で極めて暴力的なものになるだろう。10月27日、イスラエルはガザで大規模な地上作戦を開始し、その攻撃は日々拡大している。イスラエル軍は、ガザ地区を南北に分断し、病院をはじめ、学校や国連難民キャンプなど民間人が避難している施設を数々と空爆している。

この紛争での地政学的なリスクは、先ほどと同様に、状況の激化だ。ハマスの後ろ盾にはイランとカタールがいて、ハマスの指導者の多くはカタールの首都ドーハに住んでいる。イスラエルはそこで彼らを暗殺することをためらわないだろう。中東での戦争が拡大する可能性は否定できない。

世界のエネルギー市場への影響は明らかだ。バイデン氏は最近イランに60億ドルの現金を放出し、間接的にハマスに資金を提供しているため、すでに同氏への非難が集中している。

 

シリアにおけるトルコー米国ーロシア関係

出所:Medya News

この戦域については簡単に触れておこう。シリアのアサド政権打倒に向けた米国の試みはオバマ政権にまで遡る。米軍がシリア北部に駐留しているのは、この取り組みを推進し、シリアの石油産出量をコントロールするためだ 。この地域にはクルド人と呼ばれる人たちが住んでいるが、トルコはクルド人を宿命の敵とみなしている。クルド人はトルコのクルド人居住区を解放し、より広範な「クルディスタン」に組み入れようとしているからだ。

ロシアはアサド支持に大きく関与しており、これまでのところ明確な成功を収めている。トルコは最近、シリアのクルド人陣地への攻撃を強めている。米国は10月5日、シリア北部を飛行していたトルコの無人機を撃墜した。ロシアは完全に警戒態勢に入っている。三者の関係は、ロシアとトルコは友好関係にある一方で、米国とトルコはNATOの同盟国である。

状況は複雑だが、米国がトルコやロシアの航空機と空中戦をするリスクや、ロシアが米軍機にミサイル攻撃を実施するリスクは高い。


中国と台湾

出所:ロイター通信

2024年1月台湾の大統領選挙が実施され、自治権を主張する民進党が政権を維持した。今、中国との関係や、米中関係への影響が注目されている。

中国政府は選挙同日深夜、「民進党では島内の主流の民意を代表できない」とコメントした。

中国共産党が台湾に侵攻すれば、上記のどの戦争よりも大規模な戦争になるはずだが、この地域の情勢は比較的落ち着いている。

台湾を巡る米中対立がいつどうなるか不確実なことは誰にもわからないが、今すぐ武力衝突が起こるといったことはないだろう。

というのも台湾は世界最大の最も洗練された半導体産業を持っているからだ。TSMCは最先端半導体チップを作っている。その技術が中国の手に渡ることは米国にとって望ましくないだろう。

もし中国が武力侵略した場合、台湾にある半導体工場をすべて破壊するかもしれない。しかしそうすると中国は廃墟の台湾を手にいれるだけとなる。

中国はそれを知っているので、今すぐ武力で侵略しようとはしないだろう。よって短期的な地政学リスクは低減されている。しかし、世界経済にとって台湾リスクは依然として潜在的に不安定な状況であることは変わりない。


投資家が守るべき3つのルール

ここまで、現在進行中あるいはほぼ戦争状態に近い5つの状況を説明した。このリストに、アゼルバイジャン、北朝鮮、ニジェール、インドなど他の火種となりそうな場所を加えるのは簡単だ。

それぞれの危機が悪化する確率を数値で示すまでもなく、5つ以上の紛争がエスカレートしている場合、1つの紛争が制御不能に陥る確率が高いというのは、容易に予測できる。

いつか、このような代理戦争と激戦のモザイクが世界大戦を予兆していたと振り返る時が来るのかもしれない。

そんな状況下で資産を守るために、投資家として守るべき3つのルールを提示しよう。

 

1, 世界情勢をこまめにチェックする                                                                           

物事が「自然とうまくいく」と思ってはいけない。うまくいかないこともある。繰り返しになるが、統計上、これらの国々の対立のいずれかが急降下する確率は高い。避けられないわけではないが、可能性は高い。だから、今の状況全てを当たり前と思ってはいけない。

2, ポートフォリオを分散させる 

当たり前のことのように聞こえるかもしれないが、多くの投資家は分散投資を理解していない。分散投資とは、10のセクターで50銘柄を所有することではない。相関関係のない5つ以上の資産クラスに割り当てることだ。

これには株式も含まれるが、現金、プライベートエクイティ(未公開企業や不動産に対して行う投資)、オルタナティブ投資(ヘッジファンド・商品ファンド・不動産など)、金、米国債のような質の高い債券も含まれるべきである。

3, 機敏さを保つ

状況は急速に変化する可能性がある。戦争に向かう状況下では、現金と現物資産への配分を増やし、防衛・エネルギー関連株を保有すべきだ。事態がエスカレートすることなく収束すれば、株式への回帰は好期かもしれない。

しかし、今確実に言えるのは、ポートフォリオの配分を「決めたら忘れる」時期ではないということだ。

〜編集部より〜

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