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FRBはインフレをどう見ているか?

From:ジム・リカーズ

ジム・リカーズは、ウォール街で40年の経験を持つ金融・経済の専門家。地政学に精通している彼は、地理的な条件から、軍事や外交、経済を分析することを得意とする。実際、米国における彼への信頼は非常に厚く、CNBC、ブルームバーグ、ウォール・ストリート・ジャーナルといった世界的なメディアに数多く出演し、政治問題や経済の動向について提言を求められてきた。さらに彼は、ホワイトハウス、CIA、国防総省の元顧問である。2008年にはリーマンショックの発生を予測し、CIAに対して助言を行っていた。彼のもう一つの肩書きは、5冊のベストセラー本の著者。その著書には『The New Case for Gold』(邦題:いますぐ金を買いなさい)や『The Death of Money』(邦題:ドル消滅)がある。政府機関が信頼を置いてきた彼の予測や提言は、きっとあなたの金融知識の向上、ひいては資産形成にお役立ていただけるだろう。

2024年1月3日、昨年12月の連邦準備制度理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が発表された。これによれば、FRBは利上げの可能性はもはやないと考えているが、短期的には利下げを行わないことが明らかになった。

12月の議事録で、FRBの目標金利が「この引き締めサイクルではピークかその近辺にある可能性が高い」とされ、FRBが今年の終わりまでには金利を引き下げるつもりであることも明らかにしている。

では、インフレは終わったのだろうか?FRBや市場はそう思うかもしれないが、データは別のことを示している。


依然として高すぎるインフレ

インフレ率(年率換算)のピークは2022年6月の9.1%だ。2023年1月の時点ではまだ6.4%だった。同年9月にはかなり下がったがそれでも3.7%で、2023年11月のインフレ率は最新のデータでは3.1%だった。

ウォール街とFRBはこれを大きな成果だと考えているが、問題はここから。

2009年3月から2019年12月まで、つまり世界金融危機後の回復の大半を占める10年以上の期間、インフレ率が2.0%を記録したことはほとんどなく、通常は1.6%程度かそれ以下だった。

そして、現在のインフレ率は2020年のほぼ3倍だ。

3.1%のインフレはどれほど有害かというと、このレートでは22年後にドルの価値を半分にし、さらにそのまた22年後にはドルの価値は再び半分になる。

別の言い方をすれば、21歳でキャリアをスタートさせ、65歳で退職する場合、21歳で稼いだ1ドルは退職する頃には25セントの価値しかない。これは、政府が引き起こしたインフレによる75%の富の没収である。

米国人はインフレを完璧に理解しているのに、おバカな経済学者や政策立案者が理解していないのは興味深い。それは、インフレが現実世界に生きる人々の最大の関心事の一つであり、11月の米大統領選挙や連邦議会選挙で政治的な激震につながる可能性があるからかもしれない。

現実は、物価が過去40年間で最も速いスピードで上昇し、今もなお上昇し続けているということ。インフレ率が下がっているのは事実だが、物価はゆっくりではあるもののまだ上がっている。

それだけでなく、過去の値上げが固定化されているため、新たな値上げは高いベースの値段に対して適用され、米国の消費者に大打撃を与えている。

例えば、2023年9月、米国の牛ひき肉1ポンド(約450グラム)の平均価格は5.11ドル。その翌月の牛ひき肉1ポンドの価格は5.23ドルだった。これは前月比で2.3%の上昇だ。

これが実際の米国人が毎日直面するインフレだ。

以下ではFRBがインフレと景気後退のバランスを取りながら、いかに危ない橋を渡ろうとしているかを説明する。

FRBは危ない橋を渡っている

1月3日に発表された12月の議事録から見ると、FRBは現在のインフレ率について、利上げサイクルはおそらく終わったと考えているが、実際に利下げを行うのは年末になるだろうと予想していることがわかる。
 
パウエル議長はバランスを取ることを試みている。一方では、政策には進展があるにもかかわらず、インフレは依然として高すぎる。他方で、パウエル議長が高すぎるインフレを長く維持すれば、インフレは急速なディスインフレ、あるいは景気後退を伴うデフレに転じる可能性さえある。
 
パウエル議長はこのジレンマを理解しているが、どちらに転ぶべきか決めかねている。彼の答えは、何もせずにさらなるデータを待つことだ。

とはいえ、現在のFRBはタカ派よりもハト派寄りだ。何も最終決定されてはいないが、引き締めよりも緩和への傾きは紛れもない事実だ

繰り返すが、パウエル議長は危ない橋を渡ろうとしている。インフレ率はまだ高すぎるかもしれないが、金利はこれ以上の利上げをしなくてもインフレに対抗できるほど十分に高いかもしれない。これが「到達金利」の定義であり、パウエル氏はFRBが今そこに達していると考えている。

昨年12月のFOMCの最後に、パウエル議長は、金利は「このサイクルのピークレートかその近辺にある可能性が高い」と述べ、「我々の引き締めの完全な効果はおそらくまだ感じられていない」と述べた。

これは別の言い方をすれば、我々は到達金利にいるということだ。この点を強調するかのように、パウエル議長は「利上げは数か月前のような基本的なケースではなくなっている」と述べている。

また、パウエル議長は「我々はまだ道半ばだ。誰も勝利宣言はしていない。それは時期尚早だ」と述べ、経済が期待通りに推移しない場合、利上げがまだ必要になるかもしれないことを示唆した。

さらに、「賃金は我々の政策目標と一致するよりも高い水準で推移している」と付け加えた。これは、弱まりつつある供給サイドのインフレに代わって、需要主導のインフレが目前に迫っていることを示している。 

(出所:ロイター通信/FRB12月会合で話すパウエル議長)

 パウエル議長の発言で興味深かったのは、インフレ率が2.0%の目標に達する前に利下げを行うというものだ。これは、インフレ率が3.2%から例えば2.5%に低下した場合、FRBはその段階で利下げを行うかもしれないということだ。 

インフレ率が急速に低下し、2.0%の目標を通り越して1.0%以下になる可能性があるという見方から、インフレ率がまだ2.5%の時に利下げを行い、その後2.0%の目標までスムーズに下降するのを見守るというのがその理由だ。

パウエル議長はまた、12月の会合後に記者から指摘された難解な点とも格闘した。インフレ率が名目金利よりも早く低下すれば、それは実質金利が上昇していることを意味する。実質金利とは、単純に名目金利からインフレ率を引いたものである。

名目金利が5.5%に止まっていて、インフレ率が3.2%から2.5%に下がれば、実質金利は2.3%から3.0%に上がったことになる。これは引き締めの形としては異なるが、インフレ率がこのように急速に低下した場合、FRBが即時に利下げに踏み切る可能性がある。

また、パウエル議長は記者団に「QTのペースを変えるという話は今はしていない」と念を押した。QTとは量的引き締めのことで、金融引き締めのもう一つの形だ。つまり、利上げがなくてもFRBは引き続き金融引き締め政策を行っているのだ。

さらに、「人々は物を買いすぎて、一時的にこれ以上物が欲しくなくなったのかもしれない」と述べ、景気後退の方向性を示唆した。これは最近の個人消費の鈍化を指している。

実質金利と景気後退に関するニュアンスにもかかわらず、市場はハト派的な発言を好感した。FRB会合当日、株価指数は約1.4%上昇し、史上最高値を更新。金は2.5%上昇し、1オンス当たり2,045ドルに。10年物米国債利回りは4.2%から3.9%へと急落し、米国債に莫大なキャピタルゲインがもたらされた。さらに原油先物も、その日のうちに69ドルから74.5ドルに上昇した。

全体として、FRBが実際には何もしなかったことと、議事録で確認されたタカ派からハト派への傾きは重要だった。これは株式、債券、金の上昇を引き起こし、一部のトレーダーは「すべての持ち直し(everything rally)」と呼んでいる。

要するに、インフレはまだ高すぎるが、FRBは、金利は十分に高く、これ以上の利上げをしなくてもインフレは自力で下がると考えているということだ。

もし彼らが間違っていれば、インフレは甦るかもしれない。もし彼らが正しければ、インフレ率は実際に許容できるレベルまで下がるかもしれないが、それは最悪の理由によるものだ。そのような世界では、我々は深刻な景気後退に陥っているということになるので、インフレ率は下がるだろう。

FRBは手際の良さを評価されすぎている。彼らはこの分析から想定されるほど機敏ではない。しかし、これらの発言と議事録は、FRBの考え方についての洞察を与えるものであり、今後の予測に役立つだろう。

というわけで、投資家の資産配分の選択肢はこうなる。富を破壊するインフレか、別の方法で富を破壊する不況によるディスインフレか。

唯一の解決策は、現金、金、銀、米国債、そしてエネルギー、農業、防衛、その他特定のセクターの厳選された株式からなるバランスの取れたポートフォリオである。

そのような分散投資で乗り切れるだろう。

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