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【ジム・リカーズによる5トピック最新分析】

From:ジム・リカーズ

今回このレポートでは、2024年第3四半期に取り上げてきた主要トピックを振り返る。

『パラダイム・レポート』の大切なご購読者であるあなたには、今知っておくべき5つのテーマについて、世の中の流れを把握しておいていただきたい。

トピック1:BRICS通貨の進展

まず初めに、アメリカ大統領選挙、ウクライナ戦争、ガザ戦争に多くの注目が集まる中、長期的にはそれ以上に重要なトピックが見逃されている。

それは、新たなBRICS通貨の台頭と国際金融システムにおける潜在的な役割である。直近では、2024年10月22日から24日にかけて、ロシアのカザンでBRICS諸国の年次首脳会議が開催される予定だ。

出所:BRICS-RUSSIA 2024

ここでは、BRICSの通貨計画を大きく前進させる発表が行なわれるはずだ。これまでのBRICS会議では、持ち回りの議長制を採用しており、昨年は南アフリカが議長国であった。

2024年はロシアが議長国としての役割を果たす番だ。

また、BRICS会議に先立ち、2024年10月8日から9日にかけてモスクワでBRICSの財務大臣および中央銀行総裁の会議も行われている。この会議は、今回の首脳会議において、通貨に関する発表の布石となっているだろう。

・「法の支配」を手放したアメリカ

BRICSに関する注目すべき展開は、現在も進行中である。

まず初めに、米国のロシアに対する制裁、具体的にはロシア中央銀行の資産凍結。さらにその資産を事実上盗み、ウクライナ向けに500億ドルの支援へ転換しようとした。

これは、本来アメリカの強みである「法の支配」を無視にしているようなものだ。

こうした米国の無法な行動を受け、各国は米国債の大規模保有に対して、より慎重になっている。これは、2024年の金価格上昇の一因だと言えるだろう。

次に、10月下旬にロシア・カザンで開催されるBRICSサミットでは、安全な決済チャネルの構築において、大きな進展が発表される予定だ。さらに、新たなメンバーが加わる話もある。

これにより、BRICS通貨同盟を発足させるために「必要最低限の通貨量」の規模へ、また一歩近づくことになる。

この通貨同盟が一夜にして実現するわけではない。

実際、ユーロがマーストリヒト条約(1992年)から実際に誕生するまで、約10年かかっている。私は1990年代後半、欧州連合(EU)の経済統合やユーロ導入に関与したアルベルト・ジョバンニーニ氏と密接に協力していた。

彼はユーロ創設に貢献した主要な経済学者であり、学者の一人である。

そのため、当時私は、ドイツマルク、リラ、フランなど、EU加盟国通貨がどの為替レートでユーロに転換されるかを決定する技術的な課題について、よく理解していた。

・金との連携

BRICSの債券市場発展には、何年もかかるだろう。だが、もしBRICS加盟国が自国民に向けて債券を直接提供すれば、そのプロセスは加速する。

これは、第一次世界大戦中にウッドロウ・ウィルソンが、リバティボンドを販売したのと同様に、成功する可能性がある。事実、これがきっかけとなり、アメリカの一般市民が株式や債券に投資するようになった。

その結果、ディーン・ウィッター、E. F. ハットン、メリルリンチなどの「証券会社」が誕生したのだ。

BRICSを実行可能な準備通貨にするためには、さらに短い道筋も存在する。それが「金」だ。BRICS通貨同盟の加盟国は、余剰のBRICS通貨を使って金地金を購入し、それを準備資産として保有することができる。

ロシア、中国、南アフリカはいずれも主要な金生産国であり、中国には広範な精錬所のネットワークがある。そのため、実際に購入可能な金は十分な量があるはずだ。

必要に応じて購入や決済をするため、その金を簡単にBRICS通貨へ換金することができる。これらの解決策に共通するのは、米ドルを介した取引を不要にする点だ。

形はどうあれ、こうしたBRICS通貨は決済通貨として登場するだろう。これは直接的な「ドル終焉」を意味するわけではない。だが、全世界の決済において、ドルの割合が減少することを意味する。

この通貨が準備通貨となるまでには、まだ時間がかかるだろう。しかし、金との連携がそのプロセスを加速させるかもしれない。

〜編集部より〜

今回、ロシアでのBRICS首脳会議で密かに注目を集めているのは、「BRICS PAY」の導入のようです。実際、ジムが述べたBRICS諸国の財務大臣と中央銀行総裁の会議では下記のような内容が話し合われました。

・国際通貨および金融システムの改善
・世界経済の発展の見通し、BRICS諸国の経済状況
・税関および税務分野での協力
・BRICSに関する研究ネットワークの立ち上げ
・インフラプロジェクトのための複合型金融ツールの導入
・BRICS諸国の通貨準備プールの運用メカニズムの改善と、「高金利環境下におけるBRICS諸国の経済情勢」に関する最新経済報告レポートの発行
・決済分野での協力
・気候変動対策および持続可能な開発に向けた資金の提供
・金融セクターにおける情報セキュリティ
・金融テクノロジーの応用について

参照:BRICS諸国の財務大臣と中央銀行総裁は、協会におけるロシア議長の財政トラックの仕事を総括する予定

その他、ネット上でも10月にBRICS PAYが登場するかについて注目を集めています。

参考:
BRICS Payが10月に登場:このブロックチェーンベースの決済システムは、西側諸国の金融支配に挑戦できるか?

出所:brics-pay



トピック2:米国大統領選

次に、投資家に影響を与えるイベントとして、「米国大統領選挙」ほど重要なものはほとんどない。選挙戦が展開されている現在から11月5日までの間、どちらかの候補が優勢になったり、劣勢になったりすることは市場に影響を与えるだろう。

しかし、その影響はたった1か月間ほどだけでは終わらない。4年以上続くことになる。なぜなら、共和党のトランプ候補と民主党のハリス候補は、全く異なる政策を掲げているからだ。

〜編集部より〜
<両陣営の主な政策方針>

経済政策
トランプ氏:
輸入品への関税を10%課し、企業税率を引き下げることを提案
社会保障の税金を廃止し、年金受給者への負担軽減を目指している
ハリス氏
子供税額控除(CTC)を拡大し、低・中所得層を支援
高所得者のキャピタルゲイン税を28%に引き上げることを提案

外交政策
トランプ氏:
「アメリカ・ファースト」を掲げ、NATOを批判し防衛費負担増を求める
対中国では、貿易赤字の削減を強調​
ハリス氏:
多国間主義を支持し、NATOや国際協力を重視
対中国では、人権侵害への対応を求めつつも協力の必要性を認識​

・移民政策
トランプ氏:
移民規制を強化し、国境管理を徹底
不法移民の削減を提唱​
ハリス氏:
包括的な移民制度改革を提案
亡命希望者や不法移民に対する支援を強化​

Sources:Council on Foreign Relations,Kiplinger

日常的な罵り合いや、政策の競争、支持者の推薦、資金集めなどに目を奪われがちだが、実際に誰が勝つのかを理解するためにはポイントがある。それは、ニュースの見出しの背後にある選挙戦の核心を見極める必要がある。

・カマラ・プロパガンダ

今回の選挙戦は、我々が「カマラ・ナラティブ」と「カマラ・リアリティ」と呼ぶものの競争だ。ジョー・バイデン氏が7月21日にレースから降り、カマラ・ハリス氏を直ぐに支持したことは、事実上のクーデターと言える。

その後、メディアと政治の世界は、ハリス支持のプロパガンダに包まれた。それはまるで、彼女がこれまで3年半の副大統領としての責任を持たない、新しいアイデアを持つ人物として、初めて紹介されているかのようだ。

我々は、突然「新しいカマラ」が登場したかのように信じさせらている。そして、選挙カレンダーが示すよりはるかに早く進展している。

実際、米国の有権者の約35%が11月5日の選挙当日に投票し、残りの65%は事前投票の郵送投票などで投票を行なう。この多くの票は「バロット・ハーベスティング」と呼ばれるプロセスで集められ、監視のないまま投票箱に投入されることが多い。

つまり、選挙投票自体は実質的に10月中旬までで、ほぼ終了してしまうことになる。

カマラ・ハリス氏の新たな登場による「ハネムーン期間」は、7月21日から8月22日(民主党全国大会の終了日)まで続いた。そして、選挙は10月15日程までには終わる。

今回の選挙戦は、実質数週間しか判断までの時間がない、短期間の戦いである。

・民主党の秘密計画

もし、トランプ氏が270以上の選挙人票を獲得し、選挙で勝利しても「戦いは終わらない」。まだ民主党には、法的な対抗手段が残っている。

これは、民主党が下院を奪還した際のシナリオだ。2025年1月6日、民主党が勝った後の下院は、トランプ氏を「反乱者」とするだろう。合衆国憲法修正第14条第3項に基づき、彼の選挙人票を無効にする決議を可決することができる。

そして、カマラ・ハリス氏が270の選挙人票を獲得していない場合、大統領選挙は、個人ではなく州代表として投票する下院に委ねられることになる。

もしくは、1804年の修正第12条に基づき、トランプ氏が失格となり、他の候補者が選挙人を獲得しなければ、ハリス氏だけが大統領票を獲得する可能性もある。

もう一つの可能性として、共和党が勝った州代表が大統領投票をボイコットする場合、定足数が不足する。その場合、副大統領(J.D.ヴァンス氏)が修正第12条に基づき「大統領代理」として行動することになる。

これは、民主党が既に準備を進めているシナリオであり、決して現実離れしたものではない。

トランプ氏には、ハリス氏のナラティブを覆すため、後1か月がある。もし、これが成功すれば、次は民主党が2025年1月6日にトランプを失格させるための「秘密計画」を打ち出すだろう。

衝撃に備えよう。選挙結果はまだわからず、不確定な要素が多い。



トピック3:金利の引き下げについて

連邦準備制度理事会(FRB)は、予想通り9月にフェデラルファンド金利を引き下げた。

だが、0.25%ではなく0.50%の引き下げとなった。これは、想定より大幅な引き下げだが、驚愕するものではない。0.50%の引き下げも選択肢として考えられていた。

とはいえ、「経済成長に対する影響」は大きくない。なぜなら、この金利引き下げは、期待されるような刺激効果をもたらさないからだ。

FOMCの政策声明に対する投票結果は、11対1で賛成。ミシェル・W・ボウマン総裁が反対票を投じ、0.25%の引き下げを支持した。これは2005年以来初めての反対票である。

出所:Bloomberg

2024年12月31日時点のフェデラルファンド金利の目標は4.4%、2025年12月31日時点では3.4%とされている。

そして、今回の景気循環における失業率のピークは4.4%だ。しかし、これらの予測も信用できないことが多い。FRBの予測記録は非常に不安定だ。

・経済の先行き

金利引き下げが行われたことは、FRBの「二重の使命」が転換されたことを意味する。二重の使命とは、インフレの抑制と最大雇用の達成である。

今回の発表は、これまで「インフレの抑制」に舵を切っていたところから、「失業率への懸念」にシフトした明確なシグナルだ。

実際、確かにインフレの状況は好転しているが、経済の弱さを示す兆候が現れている。特に、過去1年間で失業率は3.8%から4.2%に上昇。歴史的に見ればまだ低い水準だが、急激な上昇である

さらに、多くの新しい雇用はフルタイムではなくパートタイムだとされている。これは不法移民による低賃金の仕事が、数字をかさ増ししている。

また、原油価格は94ドルから69ドルに急落。消費者の貯蓄も枯渇し、クレジットカードの限度額はいっぱいになるなど、経済の弱体化が進行している。

FRBが遅れを取っているのは明白で、景気後退の逼迫は避けられない。金利引き下げだけでは、役に立たないだろう。

次回のFRB会合は、選挙直後の11月6~7日。年内最後の会合は12月17~18日に予定されている。

どちらの会合でも「金利引き下げが行われる」と予測されているが、その引き下げ幅が0.50%か0.25%かは不明だ。いずれにせよ、経済を景気後退から救うには遅すぎると考えられる。



トピック4:3つの地政学的リスク

ここでは、ウクライナ戦争、イスラエル紛争、台湾有事についての3つを取り上げよう。

・ウクライナ – ロシア – 米国 – NATO

ウクライナにおける状況は複雑だが、結末は見えている。ニューヨークタイムズやフィナンシャルタイムズなどが宣伝するように、「膠着状態」だという西側の見解は信じるべきではない。

ロシアは1,000キロにわたる戦線で決定的に勝利しているのだ。

西側のアナリストたちを混乱させているのは、ロシアの戦争のやり方、すなわち「ロシアン・ウェイ・オブ・ウォー(ロシア流の戦争)」である。

ロシアは、第二次世界大戦でドイツが使用した電撃戦や、アメリカが好むような精密爆撃でなく、敵を徐々に包囲し「カウドロン(釜)」を作り出す。その後、ロシア軍は、包囲後に長距離砲や爆撃で中心部を攻撃し、供給路を断ち、退却ルートを封鎖する。その時点で敵は降伏するか、死ぬしか選択肢がない。

悲惨なことに、ウクライナ兵は多くの場合、最後まで戦うことを選択している。その結果、50万人のウクライナ兵が戦死。予備部隊も消滅している。ゆっくり進むことは、膠着状態ではない。ウクライナにとっては壊滅を意味するだろう。

アメリカとNATOは、これらの現実を否定し、全世界の人々も誤解している。こうした状況が進展する中、バイデン政権と現政権のリーダーであるハリス氏は、アフガニスタンからガザ、そして台湾海峡に至る一連の外交失敗に直面するだろう。

実際、ロシア制裁は失敗し、ロシア経済は好調。ロシアと中国の同盟関係、そしてBRICSも繁栄しつつある。

トランプ氏は、この戦争を終結させる平和条約を進めるだろう。だが、ハリス氏はバイデン氏によって実施された危険なエスカレーション政策を続けるはずだ。

最大の危険は、ハリス氏が大統領選に勝ち、エスカレーションが続き、核戦争に至る可能性があることである。

・イスラエル – ハマス – ヒズボラ – イラン

この戦争がどれくらい続くのか、またイスラエルとハマスが休戦に達するかどうかは議論が続けられている。だが、答えは単純だ。

戦争は、ほぼすべてのハマス戦闘員が殺されると終わるだろう。戦争開始時点で約40,000人いたハマス戦闘員のうち、約20,000人が既に殺されている。さらに10,000人が殺されれば、ハマスの戦闘能力は事実上壊滅するだろう。

こうした状況で、ハマスが降伏しない限り、あと1〜2か月はかかるかもしれない。

ウクライナと同様、最大の危険はエスカレーションである。すでにイランはイスラエルにミサイルを送り、数十年ぶりの攻撃が行なわれている。イスラエルの報復はすでに始まり、今後さらに激化する可能性が高い。

イスラエルは核保有国であり、イランはロシアとパキスタンの支援を受けている。両国ともに核保有国であるため、核戦争に発展する危険性を無視できない。

これには、大規模な平和交渉が必要だ。イスラエル、レバノン、イラン、シリア、トルコ、サウジアラビア、エジプトなど、地域の主要国を含めた平和交渉が求められている。

しかし、その役割を担う米国の外交力は弱く、バイデン・ハリス政権のウクライナ戦争に対する対応が米露関係を破壊している。この解決に必要なのは、トランプの勝利と新たな外交努力かもしれない。

・中国 – 台湾 – 米国 – 日本

中国と台湾の緊張関係は明白だが、今後すぐに戦争に発展する可能性は低い。中国は台湾へ主権を主張しているが、台湾は自らを民主主義的な自治州として運営している。

興味深いことに、台湾も一国二制度の原則を認識しているが、台湾は自らの体制が中国全体を統治すべきだと考えている

中国は、もちろん台湾を望んでいる。しかし、この国は非常に忍耐強く、長期的な視点を持っている。同国にとって台湾統一の最良の方法は、台湾の政府自身が北京との統一を認めることだろう。

これは、台湾の主要政党である国民党(KMT)が再び政権を握ったとき、実現する可能性がある。北京にとって、戦争よりもはるかに簡単で確実な道だ。

米英の海軍は台湾周辺で航行を続け、中国は戦闘機を台湾の領空に飛ばし、フィリピン漁船を脅かし続けるだろう。だが、これらが戦争に発展する必要はなく、中国にとっても利益にはならない。

重要なのは、米国の新しい統合司令部が日本に駐留するすべての米軍を指揮することを目的としている点である。

出所:アメリカ国防総省

この司令部は、米国インド太平洋軍(INDOPACOM)や米国中央軍(CENTCOM)と同等の地位を持ち、中国の外部貿易を封鎖する潜在的な経済制裁の道を開く可能性がある。



トピック5:「金」の最新情報

最後に、金の動向についてお話しよう。

金価格は独自の値動きを持っている。通常、株価が暴落するとすぐには金が上昇しない。最初は、株式のマージンコールに応じるため、または流動性を確保するために、弱気の投資家が金を売却するからだ。

その後、勢いがついてさらに売却が進むこともある。強気の投資家は様子を見て、底値を探り、そこから積極的に買いに入る。結果として、金は最初の下落後に新しい高値へ達することが多い。

2024年8月5日のミニクラッシュの後にも同様のことが起きた。

この日、ダウ平均は約3.0%下落し、S&P500やNASDAQの株価も一日で3.0%以上下落した。金は一時的に新高値である1オンス2,500ドルから約2,420ドルに下がり、予想通り3.0%ほどの下落を見せた。

その後、金への需要が再び高まり、2,600ドルに達し、史上最高値を更新している。

こうした動向を踏まえても、金は今後さらに上昇する準備が整っていると言えるだろう。これは、安全資産としての需要、流動性の優先、米ドルの将来への懸念、そして政治的・地政学的不確実性や社会不安に対する「万能なヘッジ」としての役割に基づくものだ。

金は、今後も1オンス2,600ドルを超え続け、2,750ドル、そして3,000ドル以上に達する可能性が高い。


さて、近々大きな動きがあるのは、10月22日から開催されるBRICS首脳会議と11月5日のアメリカ大統領選挙である。今後も、世の中の動向に合わせ、最新の見解を共有する。

不確実性の高い今、我々はあなたの資産を守るアドバイスをしていく。

幸運を祈る。

〜編集部より〜

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